鬼
綱が銀髪の女鬼と出逢ったその翌朝、『天乃綱が鬼に敗れた』という報せは彼女の所属する『討妖庁』を駆け巡った。
そしてその綱はというと、長官室にて昨夜の出来事を聴取されていた。
「ーつまり、文字通り手も足も出ないままその鬼に敗北したわけね」
「はい…面目無いです…」
綱は長官―つまりは綱の母親、頼光である―に頭を下げた。
「頭を上げなさい、綱。良いのです。貴女が無事に帰ってきた。それだけで充分です。」
「母様…」
「とはいえ…それだけの力を持つ鬼が『朱天』や『涼風』だけでなくまだ他にもいたとは…。」
『朱天』、『涼風』とは伝説の鬼であり、鬼の中でも最高位、つまり妖の中でも最強とされる2人の鬼である。
『朱天』は、10年前、『陰陽庁』のある都の西側の山を占拠し、そこを拠点として都に大きなプレッシャーを与え続けており、『涼風』はその『朱天』の伴侶としてその傍にある。
プレッシャーを与えている、とは言っても2人が都を襲ってきたことは未だ一度もない。ただ、もし2人が都を襲えば、都はなす術なく壊滅するだろうと言われているのである。
「しかし…」
と頼光は続ける。
「件の女鬼は貴女に一切の敵意を向けてないのが不思議ですね…。確かに話を聞いても女鬼は人間でいえば多少やりすぎとはいえ正当防衛の範囲内の行動しかしていません。そのまま貴女を見逃してもいますし…ですがその力は圧倒的。もしその女鬼があの山の主ならば暫く様子を見るしかありませんね…」
今回綱が登った山は朱天達のいる隣の山である。
そもそもそこから下りてきた妖が麓の村を襲ったとのことで今回綱が繰り出したのである。
「先ほど言った通り昨晩あの山には彼女以外の妖の気配を感じなかったのですが、今もあの山からは妖が下りてきているのですか?」
と綱が尋ねると、
「いえ、三日前あの村が襲われて以来は下りてきていませんね…」
そのまま綱はしばらく考え込んだかと思うと…
「母様、今夜にでもまたあの山に行きます。そこであの女鬼と話してこようかと思います。」
「!…そうですね。話を聞く限りは貴女に興味を持っているようですし…わかりました。許可します。しかし十分に注意をするように」
「はい。では夜に備え休養します。失礼します」
そう言うと綱は長官室をあとにする。
(もし、あの女鬼があの山の妖を抑えてるのだとすれば…)
そしてまた、夜が訪れるー




