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逢鬼物語  作者: 雅姫
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鬼山

そして綱が逢の家に行く夜が来た。


綱は天狗のいる山に向かいながら、

「いやいや…昨日は母様の『信頼されている証拠』なんて言葉に安心してしまいましたが、やはり冷静に考えると私はとんでもないことをしようとしてるのでは?長年、都を脅かし続けた朱天と涼風のいる家、つまりここらの妖の総本山ということになるところに単身乗り込む?乗り込むというか招かれたんですが…いや実際彼らは平穏に暮らしているだけで我らに害をなすことはなかった訳ですが…あわわわわ」

なんて緊張しているのであった。


そろそろ山道に入ろうかと言う頃、その入口の木にもたれかかっている者を見つけた。

以前の綱ならば直ぐに刀を抜き斬りかかっていただろうが、もう見間違えることは無い。

「こんばんは、逢」

「おはよー綱」

「えっと、なんでここに?いつもの場所で待ち合わせでは?」

「いやー冷静に考えたらあんな所で綱を待たせられないし、私も待ちたくないなぁって」

「あー…」

ここに来て綱は合点がいった。

それはそうだ、昨日2人の存在と共闘していることがバレているのにわざわざ敵の本拠地のド真ん中で待つ理由などなかった。相手が集団で襲ってきたなら1人で待っている方が危機に陥る可能性だってある。

「ですが私がいつもここから登っていること、教えてませんよね?」

「昨日途中まで一緒に帰ったじゃない?その時にいつも来てる道から帰っていったからいつもそこから来てるんだなぁって察しはつくわよ」

「…なんか悔しいですね」

「?」

「そんな隙を見せてた自分が、です。道を変えて来るくらいのことはしておくべきでした。いえ、誤解のないように言うと逢のことが信頼出来ないとかそういうことではなくてですね?」

「わかってるわよ。何となく言いたいこと、わかるわ」

そうやって逢は微笑み、杯の酒を飲み干し

「じゃ、そろそろ行きましょ、綱」

「ひゃ、ひゃい」

「…」

「な、なんですか」

「緊張してるの〜?可愛いわねぇ〜」

なでなでなでなで

「うわー!なんで撫でるんですか!?」

「可愛いから〜♪」

「髪がくしゃくしゃになります〜!」




「ま、緊張するなって方が無理よね〜」

なでなでタイムも終わり、2人は逢の家に向かっていた。

「そりゃそうですよ…ただ平穏に暮らしてるだけとはいえ、今まで最大の敵という認識だった者達の本拠地に行く訳ですから…」

「そうよねー。そういえば鬼斬りがうちの山に立ち入るのって初めてかも」

「討妖庁でも立ち入り禁止区域に指定されていて、都からそちらの山…『鬼山』に行く為の門は厳重に封印までして閉ざされていますからね」

「お、鬼山って…人間は安直な名前付けるのねぇ」

「わかりやすい方が子供たちにも危険ということが伝わりますから」

「子供は好奇心の塊だからねー。たとえばだけどこんな道通って行くこともありえないわけじゃないしね?」

2人が歩いているのは、天狗の山から鬼山に繋がる、獣道のようなところだった。

「まあ原則鬼斬り同行無しで都から出ることは出来ないんですけどね。商人も行き来のためには鬼斬りの同行が必要になりますし」

「厳重なのねー」

「それだけ妖は人々にとっては恐怖の象徴になっているんです…」

「別に取って食ったり…してる奴がいるからそうなるのよねぇ…ほんと困ったもんだわ」

呆れたように酒を飲む逢。

「…それにしてもホント毎日毎日よく呑みますね。身体悪くなったりはしないんですか?」

「こないだも言ったでしょー、私達にとってお酒は人間にとっての水みたいなものなのよ〜…ぷはぁ」

「そうですか…」

ただ逢が酒好きなだけでは?と思う綱であった。

呆れたような顔をしていた綱だがふと思いついたように、

「あれ?そういえばそのお酒ってどこから調達するんですか?」

「自家製」

「!?」

「なーに驚いてるのよ。都に買いに行く訳にも行かないし、てか人間の通貨なんて持ってないし。なら作るしかなくない?」

「いや、まあ道理ですが…酒造する妖…逢と出会ってから私の中の妖のイメージがどんどん変わっていきます…」

「それは良い方向かしら?」

「良い…というか拍子抜けというか…」

「ぷっ…あはは!」

「な、なんですか」

「なら今日はもっとイメージが変わると思うわ。さあ、そろそろ着くわよ?」

「え…」

気づけば結構歩いていたようだ。立て看板もある

『ここより鬼の山。立ち入りを固く禁ずる』

と赤文字で仰々しく書いてある。

「初めて見ました…ここにも忠告書いてるんですね」

「そ。綱のお母様が立てたんだって母さんが言ってたわ」

「直接朱天と涼風と対話できたのは母様だけみたいですから。それ以外は前に立つことすら出来なかったそうですよ」

「あはは、まあその頃は皆の住処探しに必死だったみたいだから。じゃあ今日で2人目になれるわよ?綱」

「うう…やはり緊張してきました…」

「大丈夫大丈夫、わたしもついてるから、ね?」

そう言って手を差し出す逢に、

「手、手なんて繋がなくても平気です!」

「良いから良いから」

強引に綱の手を握り歩き出す逢。

「わっわっわっ」

そして引っ張られて…

「あ…」

遂に綱は鬼山に一歩を踏み入れた…

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