信頼
陰陽庁長官室にて。
「そんな訳で母様。明日、逢の家に行くことになりました」
「こら綱、報告中は長官と呼びなさいと…ってはい?今何て?」
「明日、逢の家に、つまり『朱天』と『涼香』の、ひいては西の山の妖の本拠地に行くことになりました」
「…あらあらまあまあ」
綱は混乱している。
それは当然といえば当然である。綱は『妖』も悪い者は一部だけであり、ほとんどが静かに、人に迷惑を掛けないように生きている者だと逢と出会い知った。
とはいえ、今まで『鬼斬』として妖を敵として切り伏せてきたこと、妖を絶対悪として葬ってきたことは変わらない。
そんな自分が妖の総本山に赴いてもいいのか、そして心の何処かに『朱天』、『涼香』という伝説の妖に出会うことに対する『恐怖』が確かに存在している。
「でも綱、貴女は逢ちゃんに招かれたんでしょう?なら平気よ。」
「え?」
「家に招く、仲良くなったとはいえ出会って数日の『鬼斬』をね。まあ西の山の妖からしたら別に私達『鬼斬』は敵視してないんでしょうけど…まあとにかくそれだけ信頼されてるってことよ。もし何かあっても逢ちゃんが守ってくれるわよ。」
「…そう、ですね」
そうか、私は信頼されているのか。
母に言われ初めてその事に気がついた綱は心が落ち着いていくのを感じた。
「ありがとうございます、母様。」
「いえいえ。ところで綱」
「はい、何でしょうか」
「報告中は長官と呼びなさいと言いましたよね?」
「あ…」
この後きっちりと説教をされた綱であった。




