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逢鬼物語  作者: 雅姫
11/14

天狗

綱と逢が共同戦線を張った翌日の夜。


2人は初めて出会った月が見える拓けた場所で待ち合わせた。


「こんばんは、綱」

「こんばんは…またお酒ですか…毎日毎日よく飽きないですね」

「んー?おいしいからねー。月見酒って最高よー?綱も飲む?」

「飲みません。そもそも私未成年ですし。」

「未成年?…子供ってこと?」

「子供じゃありません!…いやまあ法的には子供で間違いはないですけど…」

「というか綱って何歳なの?」

「今年で17になります。まあ陰陽庁所属なので未成年でも成人済みと言いますかなんと言いますか」


陰陽庁に所属する『鬼斬』は術を用いる際に酒を必要とするものもあるため例外的に飲酒を認められている。


「はーなるほどね。でもそれならお酒を飲まない理由にはなってなくない?」

「単純にお酒が苦手です。すぐ酔います。前飲んだ時は記憶はないのですが、母様が止めなかったら陰陽庁が吹き飛んでたらしいです」

「何したのよ…それもう酔っ払うとかいうレベルじゃないわよ…」


逢は呆れたように言う。その逢に対して、


「逢こそ、これからまた山を散策するわけですがお酒なんて飲んでいいんですか?昨日も飲んでましたけど」

「まあ鬼にとってお酒は人にとっての水みたいなものだから。摂らなきゃ干からびちゃう」

「…なるほど。鬼の弱点はお酒…」

「ちょっとちょっとー!?冗談だからね!?普通に水とかも飲むから!」

「知ってます。伊達に当代最強の鬼斬やってません。叩きのめされましたけど」

「いつまで引きずるのよそれ!」

「それはもうずっと。そういう訳で逢、お仕事の時間ですね」

「ねー。お仕事しましょうか」


そう言うと2人は別々の方向に駆け出し綱は刀を、逢は蹴りを放つ。

それを躱すようにして二つの影が飛び出す。

その影は赤い顔に長い鼻を持ち、下駄を履いて黒い翼を生やしている。


「やっぱり天狗…!」

「これが天狗…実際に見たのは初めてですがやることは同じ!斬る!」


綱と逢は間髪入れずに攻撃を続けるが天狗は素早い動きで躱し続ける。


「速すぎ…!これじゃいつか…」

「見失う…!」


そしてその直後突風が巻き起こる。


「くっ!」


そして突風が止むとそこには天狗の姿はなく、気配もなかった。


「逃がした…!」

「話には聞いていましたがいくら何でも早すぎます…」

「あの速さはかなり上位の天狗ね…今回逃した以上同じ作戦は使えないわね…」

「敵の存在が確定しただけでも及第点ではあります。切り替えて次の作戦を考えましょう。この山だとどこで聞かれてるか分からないのでどこか話せる場所が欲しいところですが…」

「んー…じゃあうちに来る?流石にいきなり連れていくと騒ぎになりそうだから明日でもいいなら」

「そうですね…そうしましょう。ではいつもの場所で」

「ええ。じゃあ途中まで一緒に帰りましょ」

「はい」


そうしていつもの場所で別れ、下山途中に綱は気づくのだった。


「逢の家ってつまり『朱天』と『涼香』のいる家じゃないですかー!」


と。

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