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十八隊団 田原大尉


 岡部は戻ると、惣一朗を天幕の隅に呼び、田原大尉と引き合わせた。


「高倉少尉。こちらは十八隊団の、田原大尉であらせられます」


 こいつか・・・・・、逃げる農民すら酷い仕打ちをするという・・・・・。

 田原と名乗る将校は、惣一朗とほぼ変わらない身長だが、

ひょろりと細い体格をマントで隠し、威圧感を出している感があった。


 惣一朗の母親を突き飛ばして死なせたのも、こういう輩か。

 そう思うだけで、惣一朗に殺気が湧き起こったが、

所詮軍人とは、こういう類の連中なのだ。


「君が最近配属された、高倉少尉か。若いな・・・・・。

なんでも農民に施しをしていると噂で聞いたのだが、

私の聞き違いかな?」


 田原の齢は、三十歳半ばだろうか。

インテリ風なのは諏訪に似ているが、神経質そうな顔は軍人というより、

役人の下につく腰巾着を連想された。


 何よりその目つきに、人の持つ温かみがまるで感じられないことに、

惣一朗は寒気を覚えた。


「いえ、本当です。自分が指示を与えて食料を農民に分けています」

「君も酔狂だねぇ。それは美学かい?『焼け石に水』とは思わんか?

農民など、放っておけばいい。どうせ次々とわいて来るさ」


 惣一朗はこみ上げてくる怒りを抑えながら反論したが、

すぐに田原は惣一朗の言葉をさえぎり、

ジロリと睨み付けながら、田原は声を荒げて惣一朗に言い放った。


「来週から君の二十二隊団は、私の十八隊団と合流する。

つまり君は私の部下になるのだよ。

 もう勝手な真似をしてもらっては困るのだよ」


 回りくどい言い方をする田原は、

惣一朗の周りを値踏みするように一周し、


「君も私の部下につくのなら、

せめてこのマントくらい着用してもらわないと見栄えが悪い。

 沢山あるから一着あげよう」


 そう言うと、すでに岡部に渡していたマントを

惣一朗に受け取らせた。



惣一朗はむしずが走ったが、

さも広げて見ろと言わんばかりの仕草をするので、

田原が喜ぶように惣一朗はマントを羽織って見せた。


「なかなか似合うじゃないか。上官らしくていいぞ!

 これは富岡製糸所から手に入れた最高級品だ!有難く思いたまえ!

 では来週楽しみに待っているぞ」


 それだけ言い残すと、田原は数名の兵らと共に、

元来た暗がりの道に消えて行った。


 惣一朗はすぐにマントを剥ぎ取り、腕に掛けた。


 富岡製糸所だと?

 あそこはフランスと取引をしている生糸生産所だ。

 フランスの暴落の煽りを受けたのをいい事に、

二束三文で手に入れたに違いない。


 そうでなければ、これほどの最高級品を

他人においそれとやれる訳がない! 汚い男だ!


 惣一朗は田原が去って行った方向を睨み付けるように、

無言で見つめていた。

 傍で岡部が申し訳なさそうに惣一朗に謝った。


「すみません、少尉。まさか十八隊団の大尉があんなだったとは・・・・・」

 岡部は自分の進言が迂闊だったことに、ほぞをかんだ。


「いや、そんなことはない。俺より上官が居たのは俺には幸運だよ」

「それはどういう意味で・・・・・」


 岡部が惣一朗に尋ねようとした時、

背後の茂みから「ガサッ!」と音がした。

と、同時に、何か大きなものが飛び出して来た。


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