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愛すべき要素しかない君へ

わたしは、ひとつ深呼吸してから、


「アキちゃんの本当に悪いとこ、言おうか」


と、人差し指を立てる。


「まず、ひとつ」


アキちゃんは平静をよそおっているふうでも、黒目を小刻みに揺らして、明らかに狼狽している。


何を言われるんだろう、と内心ビクついているのかもしれない。


でも異論は唱えてこないので、わたしは続ける。


「背が低い」


これは、悪いというか、わたしが不満に感じていることだ。


並ぶとわたしとあまり変わらないから、わたしはヒールの高い靴が履けない。


そういう靴のほうが、得てしてステキなデザインだったりするのに。


「ふたつめ、笑うと前歯が目立つ」


でも、それが逆にかわいらしいとわたしは思っているけれど。


「みっつめ、頑固」


これには、ほとほと参った。


いくら泣いてすがっても、あの日、アキちゃんは別れる決意を固めたまま、揺るがなかった。


アキちゃんはポカンとしている。


それを目の端でうかがいながら、わたしはもう一度指を折りながら数える。


「1、2、3……うん、3つしかないや」


正確には、ひとつだ。


しかも、他のふたつについては、汚点なんかではなく、わたしにとってはむしろ愛すべき要素でしかない。


この先ずっと一緒に過ごしていったら、次第に目に付いてくるのかもしれないけど、現時点のアキちゃんにはそれだけしか見つからない。


多少一途じゃないとしても、それは大目に見ようと思う。


わたしがお見合いを繰り返したのを、アキちゃんが大目に見てくれたように。


わたしは指を3本立てて、アキちゃんに向ける。


「あのね、3つくらいの粗なら、それは欠点じゃなくて、愛嬌って言うんだって」


アキちゃんが、全身からするりと力を抜いて、後ろの鏡にもたれかかるのを見た。





アキちゃんは体勢を崩したまま、動かない。


しかし、わたしから目をそらすこともない。


ここまで打ちのめされるアキちゃんは、これまで見たことがないかもしれない。


心の中だけでニヤニヤしようと思ったけれど、あまりに無防備な表情のアキちゃんがおかしくて、抑えられずに表面に出してしまった。


でも、アキちゃんはそんなわたしの様子にかまっている余裕はないみたいだった。


なるほど、と思う。


アキちゃんはけして感情に鈍感なわけじゃなくて、おそらく必死に隠し通していただけなんだ。


「あのね、アキちゃんはさ、外見はお父さんゆずりなのかもしれないけど、中身はお母さんにそっくりだよね」


「……母さん?」


アキちゃんは、赤い唇をボンヤリと動かす。


わたしはうなずく。


「そう。アヤコお母さん。父さんが言ってたんだ。一見穏やかだけど、芯はビックリするほど強靭だって。それってアキちゃんも同じだよね」


「そうかな」


「そうだよ。さっきも言ったけど、アキちゃんは本当に頑固なんだから」


口をとがらせる。


「でもさ」


と、すぐに頬をほころばせた。


「そんなんだったら、たぶん、浮気とかしないと思うよ。自分の欲望に負けたりとか、絶対にないと思う」


アキちゃんはそれを聞いて、一瞬、考え込むように視線を落として。


すぐにまた、こちらを見た。


その目は震えていて、どうしても解けない数式の答えを、わたしに向かって請うているように見えた。


「……そうかな」


こんなに自信なげなアキちゃんも、これもまたはじめてだった。


だから、わたしは教えてあげる。


大きくうなずいて、


「そうだよ。アキちゃんはあのアヤコお母さんに育てられたんだもん。だから、大丈夫。お父さんとは、ぜんぜん違うよ」







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