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スパイラル、アン・ステイブル  作者: 偽モノ。
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2-2:「万と棒」


「これ、直せるかな?」

「……12万なら考えてやるよ」

「金取るのかよ!?」

「当たり前だろ? こっちは商売やってんだからよ」

今は1階の(よろず)さんの自宅兼商店に来ている。

靴の補修と昨日のエセ侍から奪った鎌の改造のために久々に来た。鎌は便利そうだから気絶している間に頂戴した。ただ、俺はヤツとは違うからあんなふうに鎌を形成して武器にできるようなことはできない。だからこの人に依頼をしに来たのだが、それなりに大きな金額を聞かされたものだからどうしようかと考えていた。




「友達価格で無償にしてくれよ」

「友達というなら、正当な対応をしてこそ友達だ。そこに友達を思う心があるならなおさらのこと。そもそもお前といつから友達なんだよ」

「友達みたいなもんだろ……」

いや、それは違うみたいな顔をした万さんだけれどもため息をついて仕方なさそうに呟いた。

「まあ、今回は無償でやってやる。初めて触るタイプのだからな。これからの商売につながるかもしれん」

「サンキュー!! 今度なんか差し入れるよ」

「お、どら焼きな。クリームも入ってるどら焼きな!」

急に上機嫌になり、鼻歌を奏でながらソレを作業部屋に置きに行った。

なんだかんだ簡単な人だ。

「そういえばよお、そこの姉ちゃんはお前の女か?」

出されたお茶を飲んでいたのにホースを摘むように出てきた。

万さんも椅子に腰掛け、背もたれによしかかってお茶を飲む。

「ち、ちげーよ!! 俺のペットだよ!」

「……お前もそんな年頃になったか」

「おい、何勘違いしてんだよ!?」

「事実飼われてるじゃないですか」

「今いうと語弊があるから黙ってろ!」

「キミも話に入れてよ!」

キミドリがそう言って俺の方に触れた途端、万さんも飲んでいたお茶を口から滝のように垂れ流す。

何か悪いものでも見たような、そんな顔だった。

「俺が見てるものが正しいか分からないから聞くがよ、お前の隣に幽霊のキミドリが見えるんだ。そろそろ老いが来たか?」

「キミもよろさん見えるよ!」

そう言って万さんの方を両手で指さしたキミドリ。

「え、なんで見えるの?」

俺もとっさに言葉が出た。

「ソウ、お前も見えるのk…… あれ、いなくなったな、やっぱ老いか」

「ここにいるってば!!」

俺の背中を思いっきり叩き出した。これじゃあドラミングだ。

「痛い痛い!! やめろって! ホント腫れるから!」

「みんな見えないとか幽霊とか言うんだもん!」

「そりゃみえないんだからしょうがないだろ!」

「見えないなら見えるようになればいいでしょ!」

「それが無理なの!」

そんな言い合いを見ていたのか見えていたのか。

万さんは高らかに笑い出した。

「俺にも見えてるよ、キミドリ」

耳を疑った。

だが、万さんは確かにそう言ったのだった。




俺は万さんに今までの経緯をなるべくわかりやすく説明した。信用されようとされなくともよかった。

ただ、キミドリが見えたという共通点だけでも発見できたおかげで何か肩にあったものが落ちた。そういう感覚を感じたおかげで昨日の出来事をしゃべり尽くした。

万さんは堅物な人じゃないからすんなり受け入れてくれた。一通り喋り終わると、万さんは徐々に口を開いていく。

「まあ、お前が外に出て俺のところへ来る時点で何かあるとは思っていたよ。こんな得体の知れないものまで押し付けやがるしよ」

「こっちも見えるなんて思わなかったよ。もしかして、知り合いとかに見えるってことなのかな?」

「いや、それはない」

万さんは立ち上がって鎌をこっちに持ってきた。話をしながら整備をし始めるようだ。

「俺には見えない時と見えた時があった。俺に見える時はソウ、お前に触れている時だ。だからお前にキミドリが触れなければ視認できるのはお前とそこの姉ちゃんだけだ」

「なるほどな…… これは、みんなに教えた方がいいのか……」

「それはまだ控えた方がいい」

 万さんは静かに言ったが、芯のある声だった。



「なんでだよ?」

「お前でさえ、俺でさえ事情を知らなければ信じはしなかった。そんな所でむやみに姿を晒してみろ。みんな、どうなるかわからんだろ?」

その言葉には説得力しかなかった。重い、鉛のような言霊だ。俺にその言葉の意味がわかる。俺にもどうしていいかわからないんだ。みんなだって混乱するに違いない。

「すまないがキミドリには隠れててもらおう」

重い提案をする万さんだったが、キミドリはいつもの笑顔で答えた。

「いいよ! 信じないのはソウちゃんの時でわかっちゃったし、だからいいっていうまで待つ!」

「すまないな…… お前の生死に確証が持てるまでだ。辛抱してくれ」

だが、そんな確証が持てるのだろうか。どこにあるのか、いつ持てるのか。宛がないままではどうしようもない。ひとまず、この場の雰囲気を変えるためにどうにか一言を切り出す。



「あ、あのさ! どうして俺にキミドリが見えたんだろ?」

万さんは急な問いかけに対して、即座に返した。

「頭おかしいからじゃねーか?」

「さっきと言ってること違うぞおい!?」

「冗談、ジョーダン」

そう言いつつこのおじさんは背もたれを前にして座り直した。

「お前、超能力とか魔法って信じてるか?」

「有り得ない、あるはずがないと思う。断言できる」

「だがな、世の中には説明がつかないことが沢山ある。それは今俺達が生きている時代ではあまりにも事例が少ないから認められないだけなのかもしれない。実際、過去の時代ならアニミズムなどがあったわけだから信じられていたわけだが。」

 「じゃあ、アンタはそんなカルトじみた話を信じるってのか?」

 「ああ、最近の噂とお前の話を聞いて、そう思わざるを得なくなった。そして、それは日常に溶けていくだろうな」

 俺にはその意味が理解できなかった。そんな理解に苦しむ俺を見かねて、万さんは問いかける。

 「なら、お前が遭遇したソイツはどう説明する?」

 「……」

 「ちなみに、この棒切れには特に何も施されていない。さらに言えば、他より丈夫ってだけだ。そして堀り進めればよ、ソウ。お前がそれを受けても対処できたってのが、いい証拠だ」

 俺はただの空間を見つめていた。思考が追い付かなかった。

 「なら、そういうことなのか?」

 「まあ、そういうことだ」

 まだ理解が追い付いていない俺に、万さんはそのただの棒切れを手渡す。

 「信じれないならそれでいい。信じるも信じまいも俺には関係ないからな!」

 

 

 なんかムカついたから、腹パン決めてやった。

 不意すぎたのか、とてつもなくもがいている。

 「ちょ、おま、せっかく人が重い空気を変えてやろうと……」

 「変え方がムカついたんだよ!」

 「まあ、いいさ。とにかくぅ!」

 さっきの恨みが籠もっているかのように肩に手を乗せられたが、それには多少なりとも安心感があった。

 「守ってやれよ、キミドリ」

 俺の返答に迷いはなかった。

 「保証はできないけどな」

 ただ、とっさに言われたものだから少し言葉を濁した。

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