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■ 後 編

 

 

 『あ! 公園行かね・・・? ほら、近いしさ・・・。』

 

 

 

『いいね!』 サツキが嬉しそうな顔を向ける。


眩しいほど輝くその麗しい笑顔。 

ダイゴの胸は、ときめきに容赦なく熱を帯び痛みを生じる。

サツキの笑顔に、何度でもぎゅっと掴まれる胸。

 

 

 

 

 (これからだ・・・


  これから、カッコイイとこバンバン見して、俺に惚れさせねば・・・。)

 

 

 

 

公園へ向かう道中も、ダイゴはあわよくば手をつなごうと躍起になった。


チラチラ チラチラと隣を歩くサツキを盗み見るも、サツキはダッフルコートの

大きなポケットに手を突っ込み、鼻歌まじりにご機嫌に歩いている。

 

 

 

 

  (手・・・


   手ぇ・・・ 手ぇ出せよ、いい加減・・・。)

 

 

 

 

サツキの白魚の手は公園に着いても尚、ポケットにすっぽり隠れたまま。


そして、予定通りボートに誘い出すことに成功したのだが・・・

 

 

 

 『うわぁぁあああ!!!


  おもしろーーーーーーーーーーーいっ!!!』

 

 

 

 

   サツキが、オールを操っていた。

 

 

 

 

 『けっこー、キツいし。 危ないって!』 


なんとかダイゴがイニシアティブを握ろうとするも

 

 

 

 『やだやだ! 漕ぎたい漕ぎたい漕ぎたい漕ぎたい!!!』

 

 

 

ボート乗車乗り場でジタバタと駄々をこね中々乗り込まないふたりを、

貸出係のおじさんが呆れて見ていた。


全く思い通りにいかない計画にほとほと困り果てながらも、駄々をこねる

サツキも可愛くてやっぱりサツキは可愛くて、結局オールを握りどのボートより

華麗に水上を進ませるその顔も可愛くて、ニヤニヤしながら見とれていた。

 

 

そして、気付く。

 

 

 

 

  (俺・・・ 全然カッコイイとこ見せれてねぇ・・・。)

 

 

 

 

すいすいスピードを上げてボートを漕ぐカノジョの目の前で、ただ膝を抱えて

座りニヤけるだけの服装だけは格好つけた男、というこの構図。

 

 

 

 『サツキ!!!


  最後だけは俺の行きたいトコ、行かしてっ!!!』

 

 

 

顔の前で手を合わせ ”お願い ”するスタイルでデカい図体のダイゴは懇願する。


サツキだって別にダイゴの計画を台無しにしようとしている訳では決して無い。

ダイゴの必死感に首を傾げつつ、ダイゴに促されるままそこへ向かった。

 

 

 

 

それは、街が一望できる展望タワーだった。

 

 

今は夕暮れ時で、本当は夜景が見せたかったのだけれど夕景でもこの際、

善しとしよう。


最上階へ向かうエレベーター前で一瞬ひるんだサツキになど、

余裕がないダイゴは気付けるはずもなく、半ば強引にサツキの背中を押して

エレベーターに乗り込んだ。


最上階に到着すると、そこはカップルの姿ばかりだった。

みな一様に手をつなぎ、360度街を見渡せるオレンジに燃えるパノラマを

寄り添いながら眺めている。

 

 

 

 

  (コレだ・・・! コレだよ、俺が求めていたものは・・・!!)

 

 

 

 

目をキラキラさせながら勢いよくサツキを振り返るとなんだか様子がおかしい。


『ん・・・? どした??』 覗き込むように少し背を屈めると、

サツキはどこか苦い顔をして俯いている。

 

 

 

 『ぁ・・・ もしかして・・・ 高いトコ苦手だった・・・?』

 

 

 

すると、サツキはコートのポケットからそろりと手を出すと、ダイゴのコートの

裾をぎゅっと握った。


そしてその途端、目をつぶって肩に力を入れ固まる。

 

 

 

 『手・・・ つかめば? コートじゃなくて・・・。』

 

 

 

目をつぶったままコートを握りしめるサツキの手を、そっと掴んだ。

すると、両手ですごい力で握り締めてくる。

 

 

 

 『ごめんな、サツキ・・・。』

 

 

 

ダイゴがしょぼくれた声を出した。


格好いいどころか、最後の最後にこんな事になってしまった。

すると『ううん。』 と首を横に振ったサツキ。

 

 

 

 『ダイジョーブだよ・・・ 


  でも、怖いから


  ダイゴの後ろに隠れて、景色は見ないけど・・・ ごめんね?』

 

 

 

大きなダイゴの背中にすっぽり隠れて高所の景色から逃れたサツキ。


しっかりと両手で掴んだその華奢な手は、ただひとつ信頼できるダイゴの

大きな手に充分すぎる程のぬくもりを伝える。

 

 

展望階の一角の、景色に背をむけたベンチに腰掛けたふたり。

サツキがまだしっかり手を握っているから、勿論それを離しはしないダイゴ。

 

 

ダイゴの計画の中では、この素晴らしい景色の中でキスをしたかった。


しかし夕焼け空が藍空に変わり月が顔を出す頃になると、夜景目当ての

カップルがどんどん多くなっていき、そんな甘いチャンスの可能性は

限りなく低い。


それでも諦めきれず、ダイゴはチラチラと落ち着きなくまわりを見渡していた。

全然、人波は途切れない。

途切れたと思った瞬間、エレベーターの扉が開いてまた次のカップルが

やって来る。

 

 

サツキがそんなダイゴを横目にぷっと吹き出した。

 

 

 

 『どうしたの? なんでさっきから落ち着きないの・・・?』

 

 

 

ダイゴが慌てる。 『ぇ・・・ いや、別に・・・。』

 

 

 

 『言ってごらん? ほら、正直に・・・。』

 

 

 『いや、あの・・・ ぇ、ん・・・。』

 

 

 

『正直者にはイイコトあるかもよ?!』 サツキが必死に笑いを堪える。


しかしまごついてモジモジと大きな体を縮込めるダイゴに、我慢も限界と

ばかりサツキは大笑いした。

 

 

そして、隣に座るダイゴの肩に手を置くと、少し身を乗り出して

その日焼けした頬へチュっとキスをした。


予想だにしていなかったサツキからの、ほっぺにチュゥ。

ダイゴは今サツキの唇が触れた頬をゴツい手で押さえると、呆然と目を見開き

かたまる。

 

 

 

 『今日、愉しかったから・・・ そのお礼。』

 

 

 

みるみる真っ赤になっていく服装だけモデルのようなダイゴに、

サツキはケラケラ笑って言った。

 

 

 

 『生徒会室での、あの積極性はどこいったのよ~?』

 

 

 

すると、

 

 

 

 『も・・・ もっかい!!!』

 

 

 

唇を尖らすダイゴに、『ダメ!』 サツキは手の平でその唇を押して制した。

 

 

 

 『じゃぁ・・・ ほっぺ・・・ ほっぺに、もっかい!!』

 

 

 『もう時間切れ。』

 

 

 

 

 

空はすっかり暗くなり、見事な満月と星が顔を出していた。


ふたり、しっかり手をつないだまま月あかり照らす夜道を

いつまでも笑いながら仲良く歩いて帰った。

 

 

 

                       【おわり】

 

 

 


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