表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

■ 前 編

 

 

 

駅前10時。

 

 

白シャツにグレーのシンプルカーディガン、カチっとしすぎないテーパード

パンツにはベージュスエードブーツを合わせ、黒のスタンダードコートを

羽織るダイゴは元々上背もある為まるでモデルのようだった。

 

 

サツキと初めてデートをする今日。

 

気合はキャパオーバーで溢れてダダ漏れするほど、入りまくっていた。

サツキの卒業式に長年の想いを打ち明け、どさくさに紛れて唇まで奪いキスに

関してはまぁ怒られたのだけれど、なんとかデートに漕ぎ着けたのだ。 

張り切らないはずもない。

 

 

告白の翌日、母親に頼みまくって小遣いを前借りし駅前デパートに勝負服を

買いに行った。


ファッションには全く以って疎いダイゴ。

店員に勧められるがままに頭から爪先までコーディネートしてもらい、

完璧に仕上がっていた。

 

 

 

 

  (サツキ、いっぺんに惚れんじゃねえか・・・? 俺んこと・・・。)

 

 

 

 

キョロキョロと想い人を探しながら、今日の自分のいで立ちを見てなんと

言うのかワクワクする気持ちが抑えきれず、ひとりで待ちぼうけながらも

口許は緩んでいる。

 

 

 

 

  (やっぱデートだから、サツキもスカートとかかな・・・。)

 

 

 

 

すると、待合せ時間3分前にその姿が見えた。

 

 

スラっとしたその美しいはずの脚はいつものロールアップジーンズに

ボーイッシュなエンジニアブーツ、ざっくりとダッフルコートを羽織り

もふもふのマフラーは口許まで隠してしまっている。


艶々の黒髪ストレートヘアはバナナクリップで緩くまとめていて、

その姿はデートというより近所のスーパーに買い物に行くようなお気軽さ。

 

 

 

 『ダイゴ・・・


  どうしたの? その格好・・・ なんかモデルみたい!』

 

 

 

超普段着でやって来た本来は麗しい顔立ちのサツキに驚かれて、

ダイゴは途端に自分の張り切り具合が恥ずかしくなってしまった。

 

 

 

 『いや・・・ あの、コレ・・・


  母ちゃんが、なんか勝手に買って来ててさ・・・


  着ろ着ろってうるせーから、今日着てみた、だけ・・・


  俺もすげー ヤなんだけどさ・・・ ハハハ・・・。』

 

 

 

慌てて真っ赤になって、うそぶいたダイゴ。

すると、すぐさまサツキは言った。

 

 

 

 『えー、 なんでー・・・?


  モデルみたいで、すっごいカッコイイよ?


  私、こんな格好で来ちゃって、一緒に歩くの恥ずかしくない?


  ・・・スマン・・・。』

 

 

 

サツキに変に気を遣わせてしまった事に、慌てるダイゴ。

 

 

 

 『え! 全然・・・ 


  全っ然、普段着だってなんだってサツキは可愛いから!』

 

 

 

真顔で真剣にまっすぐそんなこと言われて、驚いた顔を向けながらも

サツキは笑った。


”可愛い ”なんて、知合ってから随分経つけれど

言われた事などなかったのだから。

 

 

 

 『んじゃ、行く? バッティングセンター・・・』

 

 

ダイゴがその方角を顎で指すと、サツキは嬉しそうに大きく頷いた。

 

 

 

 

土曜のバッティングセンターは学生らしき姿が多く、やはり男子ばかりで

女子でバットを振るのはサツキぐらいだった。


ダイゴの ”カッコイイ・デートプラン ”では、ばんばんホームランを

打ちあげるダイゴを後ろの金網にしがみ付くようにうっとり眺めるサツキ。

その勇士に頬はピンク色に染まり、目は潤み、

無意識のうちに『カッコイイ・・・』 と呟く。

 

 

そんなイメージは、脳内で完璧に出来上がっていたの、だが・・・

 

 

 

 

 

   カキーーーーーーーン

 

 

 

サツキ、見事なホームラン。

 

 

バットを振る姿も惚れぼれするほど美しく、ただの野球部マネージャー

だったとは思えないその完璧なフォーム。


一方、ダイゴはモデルのようなファッションでバッターボックスに立つ

ぐらいだからさぞ腕に自信があっての事だろうと周りの注目を集めるも、

元々サッカー少年。

空振り・空振り・三振・空振り。

 

 

『くそっ!!』 バットをへし折りそうな勢いだった。

 

 

 

 『だって・・・ ダイゴ、サッカー少年だもんねぇ~?』

 

 

 

ダイゴの空振りも三振もなにも気にしていない風で、サツキはただただ

愉しそうに口角を上げている。

その横顔を見ていたら、不甲斐ない自分へのイライラが消えてゆく。

 

 

 

 

  (サツキが愉しそうだから、まぁ、いっか・・・。)

 

 

 

 

仕舞には、金網にしがみ付きサツキの勇士を

うっとり目を細め頬を染めて眺めた。

 

 

 

『昼メシ・・・ どうしよっか?』 ダイゴはそうサツキに問い掛けながらも

しっかりお洒落なカフェを散々下調べしてきていた。


THE・デートという感じを醸し出せる数店をチェックし、メニューや値段や

雰囲気までバッチリ頭に入れていたのだ、が・・・

 

 

 

 『駅前のラーメン屋行きたいんだよね!』

 

 

 

 (ラ、ラーメン・・・ デート、なのに・・・?)

 

 

 

そこはいわゆる ”家系 ”と言われるムサくるしい男ばかりの、背脂こってり

山盛りのラーメンが特徴のチェーン店で、サツキのような華奢な女子が食べに

行ったところで絶対食べきれないし、その前にまず殆ど女子なんかいない。

 

 

 

 

 (サツキが食べきれずに残したのを、俺がカッコよく平らげるか・・・。)

 

 

 

 

そんなダイゴの思惑も、

 

 

 

 『ごちそーさまでしたー!!』

 

 

 

その細い体のどこに入ったのかと思う、見事な完食っぷり。

丼は空っぽ。1滴の汁も無し。


『あっつぅ~』 白魚のような手をひらひらと翳して、顔に風を送っている

その横顔にダイゴは呆気に取られていた。

 

 

 

 

 (さ、さすが・・・ サツキだ・・・。)

 

 

 

 

満腹で込み上げるゲップを堪え、ダイゴは涼しい顔をして言う。

 

 

 

 『この後、どうする・・・?』

 

 

 

問い掛けながらも、次は近くの大きな公園に行こうと決めていたダイゴ。

そこは有名なデートスポットで、大きな池がありボートがあった。


サツキが希望を口にする前に、すかさず言う。 

まるで今、思い付いたかのように。

 

 

 

 『あ! 公園行かね・・・? ほら、近いしさ・・・。』

 

 

 

『いいね!』 サツキが嬉しそうな顔を向けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ