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ラタトスクの駆ける空  作者: 隈野 問
月の王国
9/11

部屋

ギイィ、と言う重苦しい音とともに扉が開く。

屋敷の中はひどく静かだった。

だだっ広いホールが音を反響させないつくりになっているからか。

ホールには二階へと豪奢な階段と屋敷の奥へと続く廊下。

暗闇の中にある静寂は、足音すらもすぐに飲み込んでしまう。


コツ、コツ。

響かない足音が耳に届いては消えてゆく。


大理石を敷いたホールから廊下へと抜け、自室へと戻る。

上等な芸術品の並んだ廊下を進む。

いつもの道、いつものこと。

そう、いつもいつもこうなるのだ。

彼は唇の端を少し上げる。


コツ、コツという音はいつの間にかしなくなる。

絨毯の敷かれた廊下は、この屋敷に住まう人間の部屋が割り当てられたエリアだ。

その一室の前で歩を止める。

はぁ、という音が、彼の口から漏れる。

重い、扉を開ける。


そこにはいくつもの調度品が月明かりに照らされ置かれていた。

ベッド、ソファー、机、タンス、サイドボード。

どれもこれも見るものが見ればうなる逸品ぞろいだ。

重い、堅苦しい、息が詰まるような、調度品たち。


ベッドにどさり、と身を横たえる。

ふかふかとしたベッド。

家人が常に完璧に整えているシーツに、しわが寄る。

うぅという声が漏れる。ぽたりと落ちてはシミを作るのはふわりとした枕。


いつのまにか、老人がベッドの横に立っている。

こつ、とかすかな音とともにサイドボードに置くのは薄い、グラスのカップ。

中に入っているのは、微かに色がついた水。

彼はそれを見もせずに手に取る。

口元へ寄せて、少しずつ口に含む。

ゴクリ、ゴクリ、と喉を通る液体。

ポタリ、ポタリ、と枕にも数滴が落ちる。


カップの中の液体を飲み干した彼は、どさりとベッドに身をゆだねる。

月の光が彼の顔を照らす。

目を閉ざす。

それでも、月あかりは彼を照らしたまま。


数分もすると、すぅすぅと言う寝息。

ふぅ、と息をつくのは老人。

彼にブランケットをかけ、すすと部屋を出てゆく。


月明かりだけが、彼のことを最後まで見ていた。


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