表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラタトスクの駆ける空  作者: 隈野 問
月の王国
8/11

屋敷

ガラガラという音が静かに町の外に響く。

町はまだ祭りの喧騒が漏れ聞こえるほどに活気があり、その中を貴族特権の象徴のようなものがその楽しい空気に水を差すのはあまりにも野暮というものだ。

それを老人も心得ていたのだろう、魔車グリモワール・キャリッジの行く道をしっかりと町の外に選んでいた。


ガラガラという音を聞きながら、ふともう一度彼女をまじまじと見つめる。

緑の草の冠、白い服、赤いスカート、黒い髪。

そして今にして顔を見つめるとすっと通った鼻筋に、きりりとした眉、唇には紅がさしており、目元はややたれ目で…控えめに言っても美しい顔をしていた。

おもわず目を背けるラタエル。

いつしか顔が熱くなる。


すうすうと彼女の寝息を聞きながら思案する。

一体彼女は何者なのだろう?

衣服の拵えを見るにそれなりに身分の高い人だろうに、水に浮いていた、

この国では全く見たことのない瞳の色に衣服――これはあの魔人のように「外」からやってきたものなのだろうか?

ならば、魔人に彼女を合わせるべきだろう。

どんなことになるのかはわからないが、それが最善だろう。

しかし、彼女はどこから来たのだろうか?

もしもそこに行けたら――と思案する中で頭を振る

そんなことはできない、人は生まれた場所で生きていくしかできないのだから、と自分に言い聞かせる。

それが彼が今までの人生の中でしみ込んだ、思考のひな形の一つ。

彼から離れない思考。

彼が離れたい思考。


ガタン、とその思考を遮るように魔車グリモワール・キャリッジが揺れる。

窓の外を見ると綺麗に手入れされた庭園が見える。

屋敷へとついたのだ。


彼は魔車グリモワール・キャリッジから降り、彼女をおろそうとする。

だが、それよりも早く、老人が彼女を手早く抱える。


「ぼっちゃま、ささ、夜も暮れてまいりました、お早くお部屋へお戻りください。爺はこの方を客間へお連れ致しますのでご心配なく…」

「…わかったよ、フギン、頼む。」

「もちろんでございます。ぼっちゃま。」


ガラガラと魔車グリモワール・キャリッジが庭園の中を抜けてどこかへと行く。

それとともに深々とお辞儀をすると彼はそそと屋敷へと入っていく。

屋敷はそれはそれは大きく、部屋がゆうに100は超えていそうだった。

彼はここに一人で…より正確には使用人が数人かいるが。住んでいるのだ。


ふぅ、とため息を小さくつく。

結局、この家にまた戻ってきてしまった。

家を出た時はもう二度と戻らない覚悟できていたというのに。

彼は小さく苦笑する。

結局、いつになっても帰ってくるところはここなのだ。

小さな自虐が彼の心をチクチクとつついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ