ナッツのような
それは香ばしいアーモンドに似ている。飲み込むとストンと胃へと落ちていく。苦みと微かな甘みが残滓となって残った。
ここの珈琲は絶妙だ―――。私は深く息を吐いた。
空をあてもなく彷徨わせた目線は外から店内へと移された。
窓際で携帯を葬りながら珈琲を啜っていた私以外に、店内には俯いて一点を見つめている会社員風の男性と、つまらなそうに窓の外を見ている店員、それだけしか見当たらない。もう一人店員がカウンターで本を読んでいたような気がしたが、多分、店の奥の方へ行ったのだろう。かく言う私もここが喫茶店になる前、ここが洋風のレストランだった頃、ここでアルバイトをしたことがある。そのときと間取りは全く変わった様子が無いので、きっと間違いない。
再び珈琲を啜る。
そういえばあのサラリーマン風の男性はこのような時間から、どうしてここにいるのだろう。ふと疑問に思った。
持っていたコーヒーカップを皿に置く。中身はまだ半分くらい残っている。そちらに目をやりながら想像した。想像や妄想は私の得意分野である。
きっとあの男性はリストラされたか、或いは既に失業していて、再就職に失敗したか。そのどちらかだろう。まさか仕事をさぼったわけではあるまい―――いや、真面目な人柄で、さぼってしまったことを後悔しているのかしら。
するとその男が深い溜め息をついた。どうかしたのだろうかと彼の顔を窺うと、表情は恍惚としていた。どうやら珈琲を飲んだらしい。やはりここの珈琲は美味いようだ。そう感じる人が私以外にもいることに嬉しくなった。それまで窓の外を見ていた店員が、溜め息に気付いて彼に顔に顔を向けた。そして彼の表情を見て
「おいしいですか? 私が淹れたんですよ」
微笑んだ。と思ったらまた窓の外を見始めた。天使のような笑顔だった、私は彼女のそれに恐ろしささえ感じた。誰でも、あれを見れば優しさに包み込まれたと錯覚するに違いない。それほどだった。
彼も同じように感じたのかもしれない。頬を赤らめている。いや、むしろ彼女のそれに対しエロティシズムを持ったのだろうか。何故ならばあの店員がこの世のモノとは思えない美貌を持っているからだ。その微笑みを直に受けたのだ、何も感じないということはあるまい。
それでも何かを思い出したのか、彼は再び珈琲の方へと目線を落とした。彼の顔は揺れていた。珈琲の上で。
初作品です。至らぬところは多いでしょうが、気になるところがあれば指摘して下さい。お願いしますなn((ry
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