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「それじゃあカツミ。報酬なんだけど」
「あ、ああ」
俺は黒髪少女、ミカンの口からもれたナコが気になっていた。
ミカンは以前、
「個体記号に興味ない」
と言っていた。
なのにナコという名前。
そう。しっかりとミカンは名前と言った。
俺は、どうなんだ。今は俺の事はカツミと呼んでいるけど、
俺がここからいなくなったらすぐに忘れるか、
個体記号でそんなのがあったな、と記憶に残る程度なのか。
さっきの笑顔を思い出す。
そんなミカンの口からもれたナコ。
これを気にするなというのが無理だ。
しかしミカンはもうその事には絶対に触れさせない、
何も無かったような顔で話を始めている。
「報酬は約束された転生。
ここの仕事の成果や働いた長さに応じて生まれ変われる。
最低でも自殺したときよりはかなりマシな生まれになるね」
とにかく話を合わせよう。
それにこの話は俺にとっても重要だ。
「ってことは、このままあれか。
惰性で仕事しててもあの人生よりゃいいってことか?」
「うん。ただ人間に生まれるとは限らないけど」
「は?」
「マシになるけどどんなモノに生まれ変わるかはわからない」
「おい、なんだよそれ?
人間になれないなら猫とか犬とかになってペットとして幸せにってか!?」
「そういうのもあるね。なんなら今から猫耳犬耳つけて、
にゃーにゃー、わんわんって練習しとく?」
ジェスチャー。
ん?ミカンと名前を決めてから、少し、
変わったか。どこがとは言えないが。
「それじゃあ嫌だって顔してるね」
「あたりまえだ」
「元人間で猫がいいって管理担当もいたんだけどねー」
「そりゃその人はそうだろうけど俺は嫌だ」
「そっかそか。じゃ、話の続き。
カツミが惰性でなく努力する。管理をしっかりして、
他の地区担当と会議をする、とか。それくらいになると、
何に生まれ変われるか自分で決めれるよ」
思わず目を開く。
「やる気って顔になったね」
そりゃやる気になるさ。