3
「なあ」
「なに?」
一つ悩んでるところへちょうど黒髪少女がやってきたので質問。
「この、さ。このヤクザの組長?
この人もうすぐ殺されるんだけどな」
「うん」
「そうするといざこざ起きて死人が増えるんだわ。
それらも含めてくと更に死人が増えてさ。
・・・・・・寿命延ばすの、有り?」
「カツミがそうしてもいいと思えばすればいいよ。仕事増えるけど」
「?」
「そのモノが殺された後の影響で死ぬモノの寿命。
それも決定してるって事はもうわかるよね?」
「あ、ああ。そういえば変わらないんだったな」
「そうするとさ、結局どうやっても死ぬの。
だから私としては結果変わらないからいいんだけどってこと。
死に方が変わるだけだから。
でもその更に後死ぬ予定だったモノの死に方も変わるから、
一回の流れ作業で終わることが枝分かれしちゃうの。面倒でしょ?
寿命の備蓄のやりくりもあるからあんまり変に延ばさない方がいいんじゃない?
関係するモノみんな寿命延ばしてくとすぐ貯蓄なくなっちゃうよ」
俺が名づけた寿命タンクを指差しながらクスクス笑う。
「休憩にしようか。
ここでのカツミの活躍に対しての報酬の説明がまだだったでしょ。
その説明に来たの」
少女はフラっと後ろへ倒れこむ。
しかしそのまま倒れることはなく、
ソファーに座ったような姿勢で宙に止まった。
見えないソファーのようなものがあり、意識することで出現する。
最初は違和感があったがすぐに慣れ今では俺も重宝する。
頭の中に入ってきた映像の一つをモニタに出す。
椅子に縛りつけられ爪の間にピンを刺され絶叫を上げている男の画像。
「なあ、やっぱりこういうのは早く殺してやっても・・・・・・?」
「だーめ。だめだめだーめ」
軽く頭を叩かれる。
「まだカツミは甘いな。
初仕事の時生き返らせる事できないかとか言ったあと、キツく説明したよね。
ここの仕事はまだ生きてるモノの寿命を延ばす。
決定寿命を全う出来なかったモノの寿命の回収、管理。
縮めたり生き返らせたりなんてのは違反すればすぐに下へ転生って言ったでしょ。
そんなに、ここ、辞めたい?」
「じゃあ聞くけどさ。
なんで俺には生き返らせる能力や殺す能力まであるんだ?
こいつは危ないってのを先に殺しておけば、
たまに起こる理不尽な死ってのも防げるんじゃないのか?」
「理不尽な死ってのはそういう事だけで起こるわけじゃないの。
能力は辞めたい人向けの、辞職能力みたいなものじゃないかな?」
重要な疑問をさらりと流される。
俺の視線に気がついた少女は少し真面目な顔になって、
「悩めって事じゃないかって私は思ってるよ。
あるモノを早く殺しても寿命決定のモノは死ぬ。
さっき言ったとおり死に方が変わるだけ。
寿命前の理不尽な死なんて滅多に起きないし。
それにそんな事許可したら気に入らないモノ殺して寿命蓄え放題。
システム崩壊に繋がっちゃう。寿命がきて死ぬモノは死ぬし、
途中で死ぬモノもいる。生き返らせればそれは一時喜ばれるだろうけど、
一時だけね。その後の寿命設定は?」
「・・・・・・」
「能力としては選択肢があるけど、延命操作しか使わないようにって言われる。
違反したら転生。それじゃあ一生懸命延命させよう、って、延命作業をする。
うまく収めるには結局その後影響される何人かも延命させなくちゃいけない。
情に流されず結果を判断して決めていく。
場合によっては死んで欲しいモノも現れる。
そしたらどうする?って話。
一番最初の時、神様の気分って言ったね。どお?神様」
息苦しくなってきて後ろに倒れこんだ。
「昔。昔さ。今から六十七代前にいた管理者。
この子がすごく良くできた子で可愛がってたんだけど。
ある時つい情にながされて」
子?モノとか君とかしか言わなかったのに今、子って言ったか?
勢いをつけて起き上がる。
「生き返り使っちゃったんだ。
私は落としたよ。規則に従って下に落とした。
ナコ・・・・・・」
「ナコって?」
「その子の名前」
「!?」
「そっか、私が個体記号に興味ないって言ったからね。
それでカツミは驚いてるね」
「正直驚いてる。もっと、ドライというか、冷酷な印象しかなかった」
「これでも管理担当には甘やかしてるくらい優しいつもりなんだけどな」
自分が時々優しくされた事を思い出した。
「ごめん」
「謝る必要ないよ。冗談だから」
ニヤリとまたあの悪魔のような笑顔。
それから軽い笑いになり、
「冷酷にみられないと滞っちゃうお仕事ってこと」
「さ、それじゃカツミの報酬なんだけどね」
「ちょっと待った」
「?」
「いい加減お前のこと名前無しで呼ぶのが疲れてきてるんだ。
以前好きに呼んで良いって言ったよな?」
「うん。かまわないよ」
「じゃあ、ミカン。深感って書いてミカンはどうだ?」
黒髪少女はクスっと笑い、
それから声をだしてしばらく笑った。
あっけにとられる。
「ナコと同じ事言うんだね。
いいよ、カツミ。私、ミカン。
あらためてよろしく」
懐かしいものを見つけたような、
そして少し悲しい事を思い出したような笑顔で俺に手を差し出してきたので、
俺もつい手を差し出し、ミカンと握手をした。