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「青木幸太。不摂生がたたって脳溢血で死亡か。さて、どーするかな」
つぶやきながら頭を掻く。
ここにきてから生きてた時よりも独り言が増えた。
何しろちょくちょく様子を見に来るあいつ。あの黒髪少女。
あれとしか会話がないんだ。
あの後しばらくの間黙々とマニュアルに沿ってシミュレート。
これが研修期間らしかった。そりゃ独り言も多くなる。
そして今、初めての実践。
ところであいつは名前がないから黒髪少女としか呼べない。
俺は柿崎克己。ほとんど選択肢のない状況だったとはいえ、
一応上司になると思われる黒髪少女に自己紹介をするにはしたのだが・・・・・・。
「そっか。カキザキカツミくんね。
じゃ、カツミでいいかな。私?私たちには名前なんてないから、
好きに呼べばいいよ。そういう個体記号はないんだよ」
とあの笑顔であしらわれた。
まあいいや。まずは初仕事。
寿命の貯蓄量を確認する。この寿命タンクとも言えばいいのか、
まあタンクでいいか。これに俺がやったように自殺したモノ。
まだ余命があるのに理不尽に殺されたモノ。
そういったモノが残した寿命が詰まっている。
人間以外でもごく稀に自殺する虫、動物、植物の寿命もある。
要するに生命ってやつ全てだ。
しかし虫や動植物も自殺するとはここにきて初めて知った。
だからここでは全てを総じて、“モノ”と呼ぶ。
死ぬには早いモノ。今死んだら現世で困るモノ。
そう判断した場合、この寿命タンクから寿命を引き出し、
分け与え寿命を延ばすことができる。
俺の独断で決定できるし、文句も言われない。
しかし寿命を取るのは禁止されている。
どんな悪人でどんな事をやっていても早く殺すという事はできない。
要するに寿命を残して死んだモノの命をタンクに貯蓄し、
早死にさせるには惜しいと思ったモノに振り分け長生きさせてやるのが仕事だ。
死んだモノの転生管理はあの黒髪少女がやってるようだ。
自殺はより不幸な生へ。
理不尽に殺されたモノは復讐を果たすか、
そんな事をせず安楽な生か。
そんな感じで振り分けられるらしい。詳しい事はわからない。
ひとつ確実なのは俺がここに拾われたのがそれだ。
青木幸太・・・・・・。
「ホント不摂生がひでぇな、こいつは。
環境には恵まれてるくせに。死んでいいんじゃないかな。
一緒にいるちっこいのが困るらしいけど、
そんな事いちいち気にして寿命分けてたら貯蓄なくなっちまうしな」
可愛い子と一緒にいる上に友人にも恵まれている。
うまくやりやがって。なのにとんでもない不摂生ぶりだ。
そりゃねたみもするさ。
第一貯蓄量だって無尽蔵じゃない。
いや、むしろ思っていたより少ない。
世界であれだけ自殺や理不尽に人が死んでいるのに。
どうにも不思議で研修中に聞いてみた。
「理不尽に殺されたっていう場合でもそうやって死ぬ寿命のが多いんだよ。
予定通りなのさ。そうだね、八割か九割は寿命どおりかな。
自殺のは?って顔してるけど、寿命の管理は地区でわけられてるから、
全部がここに集まるってわけじゃないんだよ。
どんな死に方をしようとも地区できっちり分けられて回収されるんだ。
そんなわけで後々やってもらうことになるけど地区会議みたいなのがあってさ。
そこで貯蓄量を確認して借りたり貸したりもあるから。
ま、うまくやりくりして」
うまく、ねぇ・・・・・・。
初仕事から無駄遣いするわけにいかないしな。
青木幸太、脳溢血で寿命終了っと。
決定を下す。
こうしてる間にも3357地区のモノ全ての寿命管理情報がどんどん入ってきてる。
モノ一つにいつまでもかまっていられない。
研修でやった通りやればいい。予定通りに死ぬだけだ。
死を確認し、初仕事に若干の満足を覚え、
気分よく次へ取り掛かろうとする。
慣れてくれば一瞬のうちに数百を管理しなければならない。
自分よりはるかに恵まれた環境の奴が不摂生で死んだという事に充足感もあった。
これが神様の気分ってやつかな?
「っ・・・・・・!!!」
突然今死んだ青木幸太の人生と、
その後の周りの人生のシーンが一気に押し寄せ、
脳がぐるぐる回転するような感覚。
だめだ・・・・・・。耐え切れず倒れる。