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Chooser Of Life Span 〈COLS〉  作者: 初菜
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プロローグ

「こんにちは」

「あ、あぁ。こんにちは」

「気分はどお?」

「気分?」

「そ、気分だよ。

自殺した気分はどうなのかな、って」


そうだ。そうだった。

俺は自殺したんだ。なんでだ、なんで生きてる?

おいおいおい、どうなってんだよ。真っ暗闇のここはどこだ?

助かったのか?じゃあここは病院か?

助かったとしたらどんな奇跡が起きたんだよ。

俺はどうやっても助からない自殺をした。

それに生きてるならなんで痛みがないんだ。

溶鉱炉に飛び込んだというのに。


「あー、大丈夫。君はちゃんと死んでるから」

黒髪ショートカットの少女は微笑みながらそう言った。

「は?」

俺はたぶん人生で。いやもう死んでるのか?

とにかく今までで一番の間抜け面をしたと思う。


「目を盗んで工場の溶鉱炉へ飛び込む、なんてね。

ちょうどそこを見かけてさ。それで面白かったから君を選んだんだ。

君は自分が死ぬ瞬間を覚えてる?覚えてないだろうね。

溶けて消えたよ。少しは熱かっただろうけど」

無邪気に笑う。


そうだ。思い出し震えがとまらない。

思わず両腕で自分の体を抱きしめる。

あれは、あれは・・・・・・、少し熱いなんてものじゃない。

溶鉱炉の熱気を振り切って飛び込みすぐ楽になると思った。

確かに一瞬何も感じなくなった。けどその後すぐに激痛で意識が戻った。

熱いのにひたすらに痛い。いやあれは痛いといっていいのか?

楽に死ねる、と思い描いてた時間までが永遠に感じられた。


そして目が覚めた今。


「思い出した?そ、君はちゃんと死んだよ。死ねたんだよ。

うん、うまくいった事にはおめでとうって言っておこうかな」

相変わらず笑顔のままだ。

「死んだんならなんで今俺はここにいる?お前が話しかけてる?」

頭の中はまったくもうなんだかわからない。

いや、俺に頭はあるのか?俺が死んだこと。あいつの言うことが正しければ、

頭なんか無いんじゃないのか?しかし両手はある。

しっかり自分の体を抱きしめている。


「死んだ後の世界」


軽いステップでターンを決めて彼女はつぶやいた。

「は?」

また俺は間抜け面をした。


「君たちの世界でよく言われてる死後の世界さ。

でもねここに来れるモノはほとんどいない。確立で言えば、

死後の世界なんて存在しないんじゃないかなってくらい。

だから死んだらそれこそ本当に最後。特に自殺者にとってはね。

せっかく逃げてきた面倒くさい世界にまたすぐ生まれ変わらせられるからさ。

君はゲームをやるかい?

ゲームで言えばせっかく最後に大団円を迎えた瞬間に、

リセットされてやり直しさせられるようなものかな。

でもリセットされた後の世界は死ぬ前とまったく違うんだけどね。

もっと不幸な世界か、凄く稀なケースで幸福な世界か・・・・・・」

「おい、待てよ。死んだら何も無くなって楽になるどころか、

何度でもああいう苦しみを繰り返すってのか?しかももっと酷いのを」

「そうだよ。そうやってどんどん落ちて行くんだ。面白いシステムでしょ?」

貼り付けたような無邪気な笑顔に初めてそれ以外のものを感じて後ずさる。


「あ。ああ、そんな怖がらないで。

ちゃんと寿命を生きたモノにはまた次が保障されてるんだよ。

前の人生より上に行けちゃう。

それに言ったでしょ。稀なケースもあるって」

「じゃ、じゃあ俺はなんなんだよ。

あのくそったれな人生よりもっと酷いところへ行くのか?

そうなのか?そのためにここへきたのか?」

「君がそういうならそれでもいいけど。

言ったでしょ。ここへ来れるのはここが存在しないくらいの確立って。

君の死に方と人生が面白かったからさ。だから選んだんだ」

「選んだって?」

「そう。選んだの。前任者がいい仕事して幸せな転生しちゃってね。

後任を探してたんだよ」

「待てよ。なんのことだかわからねぇよ」

「それを今から説明するね」


彼女が手を軽く横にふると凄まじい数の画像やグラフ、

そのほかよくわからない数値のものがバーチャルモニターのようにあらわれた。


「な・・・・・・」

「これね。私の担当地区のデータ」

「データ?」

「そ、データ。私が担当してる地区の今生きてるモノのデータだよ。

昔は規模が少なかったんだけどねー。

最近は担当地区増やしてかないと追いつかないんだよね。

ただひたすら生きてるモノは見てるだけでいいんだけど、さ。

問題は君たちなんだ」

「俺たち?」

「そ。君たち人間ってやつ。

割り当てて管理してる寿命を捨てて自殺したりとか、

まだ寿命がある他人を殺したりとか。ホント困っちゃう。

初期設定を管理してるこっちの身にもなって欲しいよ。

しかもそれがどんどん増えてく。人間増えすぎ」


人間増えすぎと言った彼女の口元に冷笑が浮かぶ。


「じゃあなんだよ。俺はその人間なんだろ。

何をしろってんだよ。増えすぎなら減らせばいいじゃないか」

「それがねー、上の決定で私たちにはどーにもできないの。

君たちの言う中間管理職の悩みってやつ?」

「・・・・・・」

「まー、そんな怖い顔しないで。

まだまだ全然わからない事だらけだろうけど、

これだけはわかっておいて。

君たちは生まれる前から寿命を管理されてんの。

で、今の君みたいに管理されてるのを狂わす存在がある。

それだけわかってれば良いから」

「ああ、わかったよ。要するにお前らは神様ってやつなんだろ?

それでこうやって下界を見てるってわけだ」

「神様、ね。そういう認識ならそれでもいいけど、さ。

それじゃ、そういうわけで君に問うよ」

「?」

「君、ここの管理をしてみないかい?」

「!?」

「さっきも言ったけど前任がいなくなっちゃってさ。

すっごい優秀だったのに残念だよ。

あのモノがいなくなってから私がここの管理しててさ。

他にもやらなくちゃいけないこと沢山あるのに。だから君が今度はここで働く。

どうかな?もちろん断ってもいいよ。

ただそうなると、すぐにもっと酷い人生に転生なんだけど」

「俺がここで・・・・・・」

「そ。お仕事はね、この表を全部把握して寿命を管理、調整すること。

さっき言ったよね。神様って。初めはそういう認識でいいからさ。

そのうち違うってわかってくるだろうし」

「断ったらあの人生より酷いところへ転生・・・・・・」

「うん。すぐに落としてあげる」

相変わらずの微笑み。


「ここへ来れること、そして管理者になる選択をできること。

こんなチャンスはめったにないんだけどな」

「・・・・・・かった。わかったよ。引き受けてやるよ」


少女は初めて感情のようなものを出し目を少し輝かせて喜んだ。


「よし。それじゃあこの3357地区の管理を今から君に託すね」

「3357・・・・・・。他にどれだけあるんだ?」

「んー。君たちの精神じゃ知らないほうが衛生上いいかな。

ま、仕事続けてれば知る機会もあるだろうし。少しずつでいいよ」

「少しずつっても、もうこの情報ですら頭に入るわけないんだけどな。

転生が嫌だから引き受けちまったけど無理だろ、これ」

少女が表示した凄まじい数のデータに指をさす。


「大丈夫大丈夫。うちはブラック企業じゃないから。

新人さんにはちゃんとケアするよ。ほら、画像をちゃんと見て」

「こんなもんどう見たって・・・・・・、え?」

「ね?」

「なんだよこれ。全部把握できてるぞおい」

「さっき君が引き受ける事を選んだ時についた能力だよ。

ただの人間じゃ無理なのは当たり前だからね。

さ、さっそくお仕事してね。マニュアルも能力と一緒に入ってるから。

しばらくは、そうだね。神様ってやつにでもなったつもりでやればいいよ。

独り立ちできるまで私もサポートするし」



こうして俺は3357地区の寿命管理人。

いや、もう人ではないから管理人はおかしいな。

管理担当になった。

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