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油断のしすぎにご注意を

『おいおい……あからさま過ぎるだろ。教官達も俺らを馬鹿にしすぎじゃね?』


 レベル1のくせに戦士が一丁前な口を叩く。仕方ないだろ! 使えるよう必死に考えた結果そうなったんだから。


『確かにこれはちょっと……明らかに罠を張っていますと言わんばかりだな』


 勇者も呆れ口調で目の前の光景を見つめている。


『……余裕で回避です』


 魔法使いは言葉数は少ないけど馬鹿にしているのがありありと分かる。くそう……。


『だね。サシャ、あとで教官に文句言っといてよ』


 最後の僧侶も勇者同様呆れ口調だった。あんたら絶対覚えておけよ。


『確かにこれでは演習も何もないからな。了解した。手抜きしないようきちんと掛け合っておく』


 といった感じで、勇者様ご一行は部屋の奥に配置されていた虎鋏みの並びを見て、口々に文句を垂れていた。

 虎鋏みの大きさはそれなりに大きく、幅が1.5メートル程で挟まれないよう通ろうとするのは流石に難しい。それは勇者たちも同じだったようで無事に僕の()()にひっかかってくれたようだ。

 5個しかない虎鋏みのうち4個使って作ったトラップ。部屋の左右に二つずつ、勇者たちから見て「ハ」の字型に設置されている。つまりは真ん中の部分、虎鋏みが置かれていない部分だけが安全に通れるという事だ。


『ま、こんなものさっさと突破して帰ろうぜ』


 戦士が警戒心ゼロの足取りで虎鋏みへと近付いていく。勇者たち残りの3人も仕方がないと首を振って、近付いて来ていた。そして、戦士が虎鋏みの中央一歩手前で立ち止まった。釣られるように残り3人も止まる。


『うし、ここに罠があると仮定して……どうするよ?』


『練習用ダンジョンで凶悪な罠を隠して用いているとは考えにくい……このまま通っても良いように思う』


 戦士の問いかけに勇者は少しだけ考えるそぶりを見せて答えた。しかし、その内容は何だ? 勇者は馬鹿なのか? 何故罠があると分かっていて無策で突っ込む?

 そして首を傾げていると、僕の疑問を察したのかフローラが少々申し訳なさそうな声音で説明しだした。


「マイマスター、今回のダンジョンはマイマスターにとって初心者講習という位置付けにあると存じます。ですが、講習とは申しておりますが、実際はダンジョンの入口を拝借して実戦を行っております」


「え!? ということは、この人達サクラとかじゃなくて本当に攻略に来てるのですか?」


「はい。ですが、制限レベル1となっておりますので、それに合わせまして冒険者育成学校のダンジョンの入り口を拝借しております」


 はー……つまりはこの4人は将来を嘱望されている(かは未明だけど)人達ということか。しかし、冒険者育成学校とかあるのね。さすがダンジョンというファンタジーな物があるだけあるわ。

 と、そこで気付いた事をフローラに訊ねてみた。


「ということは、この人達は学校のダンジョンに潜っていると勘違いしているという事?」


「仰る通りだと思います。ただ、あまり優秀とは言えないかも知れません。いくら学校のダンジョンとはいえ、危機管理が杜撰すぎます」


「ですよねー。まあ、今まで何もなかったから仕方ないかもしれないですけどね」


 僕とフローラはお互いに冒険者の4人に低評価を下しつつも、画面へと集中した。

 画面には戦士が虎鋏みの間を通り抜けようとしているところが映し出されていた。


『ほら、やっぱり何もないじゃないか。こりゃ完璧に教官達の手抜きだな。ま、こんなので単位がもらえるならそれはそれで有り難いか』


『ふふふ、そうだな。初めての実習がこんな簡単なものだとは思わなかったが、まあ去年一年準備を頑張ったご褒美だと思おう』


 すぐさま戦士を追い掛けてきた勇者はそう(うそぶ)きながら戦士の横に並ぶ。戦士はまるでデートしてるみたいにして彼女の方を抱く。そしてそのまま2人仲良く並んですたすたと虎鋏みの間を抜けた。

 いくら今まで何もなかったからといって油断しすぎ。2人にはきっついペナルティが妥当だろう。

 妬みの感情も混ざった目で画面を見る。戦士と勇者の仲良しコンビがそのまま虎鋏みの後ろへと抜けて特定の位置に来た瞬間。


 ガゴオォォォォォォン!!


 轟音と共に二人の足場が消え失せた。二人は突然の事に思考が追いつかなかったようでそのまま落とし穴に落ちていった。僧侶や魔法使いも呆気に取られている。


『キャアアアアアアアア!!』


『ヌアアアアアアアアア!!』


 一拍遅れて二人の悲鳴が部屋中に木霊する。あの落とし穴はそれほど深くはないけど、それでも自力で登れないように5メートルほどはある。つまり二階建ての家の屋根から飛び降りる感じ。

 ドシャ! と少し重めの音が穴の方から聞こえ、勇者と思わしき呻き声だけが聞こえて来ていた。

 戦士の方は……フルプレートだったし重すぎてアウトだったのかも。その思いが少し怖さを引き起こした。

 しかし、画面の中では僕のそんな気持ちなんて無視された。勇者の呻き声に漸く我に返った二人が動いた。


『サシャ! グレッグ!』


 僧侶が慌てて穴に近寄ろうとする。魔法使いも同様で叫びこそしなかったもののその顔には焦燥の色があった。しかし、そうは問屋がおろさない。


 ガゴオォォォォォォン!!


 再び轟音が響き、今度は虎挟みと虎挟みの間にいた僧侶と魔法使いの足場が消え失せる。こっちの落とし穴は勇者たちが落ちた落とし穴に連動してあって、10秒後に開くようになっていたんだ。


『イヤアアアアアアアアア!!』


『…………………………っ!!』


 僧侶が先程までの勝気な様子からは考えられない可愛い悲鳴を上げ、魔法使いは声にならない悲鳴を上げて落ちていった。

 そして、今度はドサ! というさっきより軽いけど鈍い音がして、次いで僧侶の呻き声が聞こえて来た。魔法使いの方は戦士同様ない。けれど、さっきの悲鳴から考えると声が拾えていないだけかも。

 

「マイマスター、落とし穴に隠していたゴブリンたちが彼女たちを襲おうとしておりますが、如何なさいますか?」


 そういえばそんなものを配置していたな。しかし、無抵抗な相手を襲ってどうするんだろう。

 疑問をそのまま口にして訊ねると、フローラは顔をしかめながら教えてくれた。


「ゴブリンは弱小種族ですので、ありとあらゆる生物を苗床として繁殖します。ですが、人間に近い価値観を持っておりますので、狙うのは主に人種、次いで同族が多いようです」


「今の説明から考えると、ゴブリンたちはあの勇者や僧侶たちを強姦しようとしている、そういうこと?」


「はい。今はまだ獲物の様子を窺っているようですが、弱っていると判断したらすぐに襲いかかるかと」


「初めてでその展開はちょっと……取り敢えず止めさせられる?」


 僕も顔をしかめているのが判る。流石にそんな性犯罪を促すわけにもいかない。

 フローラは難しい顔で思案しだした。


「彼等には事前に言い含めておきませんと欲望に忠実に動きます。しかし、今回はそれをしておりませんでしたので難しいと思います。まだ捕虜として確保なさる場合でしたら対応できますが」


「そのための牢獄がない、と。そういうことですね?」


 続きを引き継いだ言葉にフローラがこくりと頷く。どうしよう……。

 その時、ブゥンと重低音が部屋中に響いた。何事かと僕とフローラが聞こえてきた方向に顔を向けると、壁の一部がスライドしてそこから先輩が出てきていた。

 理解が追いつかない光景に目を白黒させていたら、先輩がさも嬉しげに挨拶してきた。


「やあ、後輩君。元気にやっているかい?」

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