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目覚め

「できない・・・・・・」


 あれから達磨は結真を何度もデートに誘い、いろんな場所へ連れて行ったものの、未だに進展がなく、友達止まりだった。

 

「達磨?」

「結実香ちゃん」


 テレビを観ていた結実香は達磨を見ていた。


「どうしたの?」

「何でもないよ。結実香ちゃん」

「嘘。さっきからテレビを観ていなくて、溜息ばかり吐いているよ!」


 結実香は達磨の様子がおかしいことに気づいていて、テレビを観ていなかった。


「ごめんね、ちょっと考えごとをしていただけだから」

「悩みだったら、いくらでも聞くよ?」


 結実香は優しい性格で、達磨の様子がおかしいことに気づくと、いつも心配そうに見上げる。


「大丈夫だよ」

「その言葉は飽きたの!」


 何度同じことを繰り返しても、結実香に通用することはなかった。

 達磨は結実香と向き合うように座り、結真のことを話した。


「告白しないとね!達磨!」

「告白?」

「そうよ!」


 ビシッと達磨にまっすぐと人差し指を伸ばした。


「そんな簡単に言わないでくれる?」

「簡単になんて言っていない。私は真剣に言っているのよ!」


 告白。その言葉がずっと達磨の頭の中で回転している。


「達磨は結真ちゃんが好き?」

 

 あまりにもストレートな質問に達磨は息を呑み、静かに頷いた。


「告白を断られるかもしれないから怖いの?」

「うーん・・・・・・」


 そうではない。もちろんそれもあるが、今以上に関係が悪くなることだけは避けたい。

 離れ離れになることは嫌だから。


「じゃあ・・・・・・手紙は?」

「手紙ね・・・・・・」


 結実香とだったら、何度も手紙のやりとりをしてきた。最初に手紙を渡してきたのは結実香だった。

 達磨が自分の部屋へ入ると、結実香が両手で手紙を渡した。


「これは何?」

「手紙よ!達磨、読んで!」

「こんなのいらなーー」


 最後まで言う前に結実香は笑顔から無表情になった。まだ泣き顔になってくれるのだったら、ましだったのに。

 どこでそんなことを覚えたのだろうか。


「わかった、わかったから」

「本当!?」

「ちゃんと読むよ」


 それだけで満足してくれるのだと思っていたら、しっかりと返事を書くように言われた。

 それからときどき結実香と手紙のやりとりをするようになり、達磨が結実香の手紙を読む度、書く度に本人はニコニコと笑っていた。


「手紙が嫌だったら、電話とかは?」

「電話・・・・・・」


 結実香がいろいろ提案してくれたのに、どれも納得ができなかった。そもそも告白をするまで気持ちを持って行くことができない。


「練習をしようか、達磨!」

「練習?」

「そうよ!ここに座って!」


 達磨が座布団に座ると、結実香が向かい合わせになるように座った。


「告白をどうぞ!」

「は?」


 いやいや待て。それですんなり練習ができるはずないだろう!


「結実香ちゃん、そんないきなり言われても・・・・・・」

「じゃあ、私がお手本を見せるね」


 結実香は背筋を伸ばして、まっすぐに達磨を見た。


「好きだよ、達磨!私の恋人になって!」

「!」


 告白を終えると、いつもの笑顔に戻り、達磨に抱きついた。


「どうだった?私の告白」

「あぁ、悪くなかったよ」

「本当!?良かった!」


 その日はずっと告白の練習をし続けた。途中で何度かやめようとしていた達磨だったが、結実香はやめなかった。


「はあ・・・・・・」

「授業はもう終わったのよ。何の溜息?」


 廊下で外の景色を見ていた達磨に声をかけたのは結真だった。すっと隣に来て、同じように景色を見ている。


「結真ちゃん」

「何?」

「好きな人、いる?」


 一瞬、驚いた結真はすぐに達磨に返事を返した。


「いるよ」

「そう・・・・・・」

「知っていると思っていた」

「俺の知っている人?」


 結真はそれには何も言わず、達磨を一瞥してすぐに窓の外に視線を戻した。

 告白をするために達磨が口を開きかけたとき、結真が先に達磨に話しかけた。


「もうすぐ結実香ちゃんの誕生日だね?」

「結真ちゃんもだよ?」


 結実香と結真は同じ誕生日であることを知ったのは、琉生が結真を連れて、達磨達の家に遊びに来たときに知った。

 

「何が欲しい?」

「綺麗な家」


 達磨は即座に却下した。そんな高いものを買うことはできない。


「ないの?」

「えっとね・・・・・・甘いものだったら、何でもいいかな?」


 結実香と結真は同じ誕生日で似ているところがいくつもあるから、同じことを言うのかもしれない。

 先日、結実香に同じ質問をしたら、結実香も甘いものを欲しがった。


「考えておく・・・・・・」

「お願いね。ところでさ、さっき、何か言いかけたよね?何?」


 思わず嘘を吐こうかと思った。

 だけど、そのときに結実香を思い出した。いつだって、達磨と一緒にいて、笑ったり、喧嘩をしたり、恋の応援をしてくれた。

 だから、素直に告白する。


「結真ちゃんーー」


 告白をした結果を報告するために達磨は急いで家に帰った。


「おかえり!達磨!」

「ただいま、結実香ちゃん」


 達磨が結真に告白をして、恋人同士になったことを結実香に伝えると、結実香は喜んで、達磨に抱きついた。


「おめでとう!達磨!」

「ありがとう、結実香ちゃん。これも結実香ちゃんのおかげ・・・・・・っ!」


 そのとき結実香が一瞬、光ったように達磨には見えた。達磨が驚いていると、結実香は首を傾げた。


「どうしたの?」

「ううん、何でもないよ・・・・・・」


 気のせいだと、自分に言い聞かせた。このときはただの疲れだと思っていた。

 だけど、そうじゃなかった。結実香と結真の誕生日が近づくにつれ、結実香が光る回数が増えている。まるで何かの合図のように。


「最近、結実香ちゃんが光っているんだよ」

「私は蛍じゃないよ?達磨」


 ひよこのぬいぐるみの頭を撫でながら、結実香は笑った。それがいつもの笑顔でないことに達磨は気づいている。


「結実香ちゃん、何か俺に隠しているよね?」


 結実香が黙ったので、達磨が続けて話した。


「ただの女の子じゃないように見えるんだ」

「・・・・・・もうすぐお別れしないといけないの」


 今にも泣きそうな顔をしながら、結実香はポツリと言った。


「前に言ったよね?私が結真ちゃんと恋人になれるために恋のキューピットになること」


 もちろん達磨は忘れてなんかいない。そのおかげで結真と恋人になったのだから。


「うん、言ったね」

「そのために来たの」

「ん?」


 結実香の話をまとめると、結実香は未来から来た少女で、元の世界に戻るために結真と達磨の恋を実らせなければならない。そんな話を簡単に信じることができなかった。


「やっぱり信じてもらえないよね?」

「結実香ちゃん!?」


 結実香の姿が見えず、ただ声しか聞こえてこない。前後や左右を見渡すと、結実香の姿が見えるようになり、達磨は安堵の溜息を吐いた。


「結実香ちゃん・・・・・・」

「達磨、本当はもっと話したいことがあるけれど、時間切れみたい」

「待って!俺はまだ!」


 結実香の手を握っていると、少しずつ透けていく。それは別れが近づいている。


「また会えるからね、達磨。それまで・・・・・・ばいばい」


 結実香が完全に消えて、達磨の部屋から全然違うところに移動していた。どこを見ても、真っ白で何もないところ。結実香の目の前に現れたのはあのひよこのぬいぐるみ。


「おめでとう、結実香。約束通りにあなたの願いを叶えてあげる」

「本当!?嬉しい!ありがとう!試験監督のひよこさん!」


 ひよこのぬいぐるみは仮の姿。本当の姿は優しげな瞳をしている女性。

 実は結実香は交通事故に巻き込まれ、生死を彷徨っているときに彼女と出会い、ある男女を恋人にすることを試験として、持ちかけられていた。合格なら、生きることができ、不合格なら、死ぬことになる。


「お世話になりました!」

「結実香、私はいつでもあなたを見守っているからね」


 結実香の全身が光に包まれた。重い瞼をこじ開けると、誰かが結実香を覗き込んでいる。


「結実香ちゃん!?良かった、すぐに先生を呼ぶからね!」


 頭がぼんやりとしている上に視界がはっきりとしていなかったが、声に聞き覚えがあった。


「結真ちゃん?」


 結実香が寝ていた場所は病院だった。

 先生にあちこちと診てもらい、回復に進んでいることを知り、結真は涙ぐんでいた。もうしばらく様子を見て、悪化することがなければ、退院できる。


「結実香ちゃん、もう少しで家に帰ることができるからね?パパにもさっき連絡したら、すぐに来てくれるって」

「パパ?達磨?」

「うん?そうよ?どうしたの?」

「早く、会いたい・・・・・・」


 結実香が過去の世界に飛んでいたのは自分の両親、達磨と結真が若かった頃の世界であることをこのときにようやく理解した。

 ずっと懐かしい香りを感じていたので、その理由がはっきりとした。


「ママ、私・・・・・・パパとママがいてくれて・・・・・・良かった」

「私もよ。もう、友達にもらったお菓子を道路で落とさないでね。事故に遭ったと聞いたときは心臓が止まるかと思ったのだから」


 事故に遭う前に結実香と同じ月の誕生日の友達を集めて、友達の家で誕生会に招待されていた。その帰りに結実香はピンクのリボンで結んだ焼き菓子を横断歩道を渡るときに落として、急いで拾おうとしたところ、スピード違反をした車にぶつかってしまった。

 

「焼き菓子・・・・・・ある?」

「あるわよ」

「見せて・・・・・・」


 焼き菓子を結真に見せてもらうと、袋の中に入っているクッキーは少し割れていた。元気になったら、すぐに食べることを決めた。

 数十分後に汗を掻いている達磨が病室に入ってきて、心配したことをたくさん結実香に伝えた。

 

「ママ、パパ、ごめんね。怪我しちゃって。それと・・・・・・ママの誕生日をお祝いできなかった・・・・・・」

「結実香ちゃん、さっき、ママと話していたんだけれど、退院したら、きちんとお祝いしよう。家族で」

「いいの?パパ・・・・・」


 優しく笑う達磨を見て、結実香も笑顔になった。

 それから結実香は無事に退院して、どんな誕生会にするか、家族三人で話し合いをしていた。


「結実香ちゃん、どこか行きたいところはある?」

「うーん、三人で一緒にいられるなら、どこでもいい!」

「結真ちゃんは?」

「そうね・・・・・・あ!あそこは?」


 結真が達磨に何やら耳打ちをしている。結実香はただ首を傾げるだけだった。


「美味しいものを食べに行かない?」

「それ、何?パパ」

「楽しみは後で」

「行く!連れて行って!」


 到着した場所は過去の世界で達磨と結真がデートしたパンケーキの店だった。十年以上も経っているのに、特に変わりはなかった。

 

「どれにしよっか?」

「ママ、これは?」


 結実香が注文しようとしているものはパンケーキが何枚も重なっているタワーのようなパンケーキ。

 結真は結実香と一緒にそれを食べることにした。


「すごいね、写真を見ると、かなりの高さだよ?」

「大丈夫よ!私がいるから!ね?結実香ちゃん!」

「うん!ママ!」


 結真と結実香は注文する前から楽しみで仕方がないようだ。

 達磨は結真の手を取り、軽くキスをした。


「ちょっと!達磨!」

「ふふっ、ほら、結実香ちゃんも」


 達磨は結実香にもさっきと同じようにキスをした。結実香は笑顔になっていて、結真は顔が赤くなっていた。


「可愛い」

「子どもがいるのに、からかわないでよ!」

「じゃあ、後でもっと真っ赤にしてあげる」

「もう!」


 達磨と結実香がくすくすと笑っていると、すぐに達磨の笑いが止まった。


「結真ちゃん、結実香ちゃん、お誕生日おめでとう。これからもよろしくね」

「こ、こちらこそ・・・・・・」

「よろしくね!」


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