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風呂

「達磨、好きな子はいないの?」


 どうして突然そんな質問をするのだろう。

 結実香が質問する理由を知りたいと思いつつ、返事に答えることにした。


「俺は結実香ちゃんが好きだよ」

「嘘ばっかり。いつも意地悪する」

「優しくしているよ?」

「全然。ね?」


 結実香はひよこのぬいぐるみにそんなことはないのだと話しかけている。

 似たもの同士だから、話が弾むのか?


「達磨は結真ちゃんが好きなのよね!うんうん、きっとそうなの!」


 このガキ、断言しやがった。

 しかもそれが当たっているのだから、否定することができない。


「結実香ちゃんは学校で好きな男の子がいるの?」

「学校にはいないの!」

「学校には?」


 別の場所にいるということなのか?

 数日前に飴をあげようとしていた近所の高校生か?


「誰かわかる?」

「うーん、近所のお兄ちゃん?」

「違うよ、達磨が好きなの!」


 小学生に告白をされてしまった。

 どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。じゃなくて、年齢の差があるだろう!?


「結実香ちゃん、気持ちは嬉しいけれど・・・・・・」

「だからね!」


 おい、こら!人の話を最後まで聞けよ!


「結真ちゃんと恋人になれるために恋のキューピットになるの!」

「キューピット?結実香ちゃんはそれでいいの?」

「いいの!」


 質問してから自分が何を言っているのだろうと考えた。

 そもそもどうして結真に片思いしていることがわかったのだろう。


「だって結真ちゃんも達磨も大好きだから!」

「そういう意味だったんだ・・・・・・」

「これくらい大好きなのよ!」


 結実香は両手を大きく広げて、教えてくれる。

 多分琉生のことも同じトーンで同じ答えを言うに違いない。それが何だか腹立たしかった。


「達磨?」

「うん?」

「どうかしたの?」


 急に黙り込んだ達磨を結実香が不安げに見上げてくる。

 可愛いな・・・・・・。


「何でもないよ。どうやって恋人にしようと考えているの?」

「うーん、ここへ呼ぶのは?」

「ここだったら、俺じゃなくて結実香ちゃんばかり構うでしょ?」

「それもそうね」


 結実香は納得して、どうしようかと再び悩んでから、いい案が思いついたのか、自分の手を叩いた。

 達磨はあまり当てにしていない。


「じゃあ、外でデートは?」

「それは悪くないね。どこへ連れて行こうか・・・・・・」


 結真が好きなものは甘いもの、スイーツや花、動物、場所だったら、遊園地や博物館、買い物ができるところなど、好みはかなりある。

 いっそのこと、本人に行きたい場所があるかどうか悩んでいると、結実香がオススメの場所がたくさん書かれている本を出して持ってきた。


「この本、近くの店が書いてあるの!」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 達磨が本を受け取る前に結実香が達磨の隣に座って、ページを捲っている。

 ページを開いたまま、達磨に本を渡した。


「あった!ここはどう?」

「ここは・・・・・・」

 

 開いているページは人気のパンケーキの店で、結真が前に行きたがっていた店だった。

 店の名前を忘れていたので、達磨はこの店のことについて調べていなかった。


「いいね」

「じゃあ、電話をするの!」

「今から!?」

「早く早く」


 決めたことはすぐに実行するように結実香が達磨の携帯電話を机の上から持ってきた。

 電話帳の中から結真の番号を検索して電話をかけた。


「もしもし」

「もしもし、結真ちゃん?俺だけどさ・・・・・・ははっ!」

「ちょっ、何よ!?」

 

 達磨がいきなり笑い出したので、結真は驚いて携帯を落としかけた。

 笑っていた理由は結実香がひよこのぬいぐるみをボールのように転がして遊んでいるから。

 ーーペットを飼っている気分だった。


「達磨!電話に集中しなさい!」


 ペットに怒られてしまった。

 達磨は結真にデートの誘いを持ちかけた。


「はいはい、ごめんね。実はね、今週の日曜日に俺と出かけない?」

「達磨と!?どこに?」


 意外だと思ったのか、結真は驚きの声を出した。


「前にパンケーキの店を教えてくれたでしょ?そこへ行こうよ」

「結実香ちゃんはどうするの?」

「この日は母親がいるから、何も心配ないよ」

「わかった。それだったらいいよ」


 そう伝えると、結真は安心して一緒に行くことに決めた。

 待ち合わせ場所や時間を二人で相談してから、電話を切ると、結実香と達磨は両手をタッチした。


「良かったね、達磨!」

「ありがとう」

「楽しんできてね!お土産もよろしくね!」

「お土産ね・・・・・・」


 本当の目的はそれだったのではないかと、疑いの眼差しを向けると、結実香は狸寝入りを始めた。

 優しく起こすために首筋を擽ると、ケラケラ笑っていた。


「わかったから、風呂に入るよ」

「今日も背中を流すからね」

「自分でできるのに・・・・・・」

「たまには甘えなさい!」


 お前は毎日やっているだろう。

 達磨の下着やパジャマの準備をしている結実香を見て、だいぶこの家に慣れていることを思い知らされる。

 結実香がここに来てから、もうすぐで一ヶ月になる。


「結真ちゃんと一緒に風呂に入りたいな」

「達磨のエッチ!」


 お湯を両手で達磨にかける結実香。


「本音だから仕方ないよ」

「今度結真ちゃんが来たときに報告するから!」


 冗談だと言えば、結実香は睨みつけてきた。

 これっぽっちも怖くないが、本当に言われたら、面倒なことになるので謝った。


「ごめんね」

「もう言っちゃ駄目だからね!」

「やっていいの?」

「やるのも良くないの!」

「だから嘘だって・・・・・・」


 本当に誰に似たのだか・・・・・・。

 お風呂に入る前に母親に日曜日のことを話すと、母親は結実香と水族館へ行くことにしたので、結実香は大喜びだった。


「日曜日!日曜日!」

「もう楽しそうだね。結実香ちゃん」

「だってたまに行くくらいだから」


 達磨が髪を洗っているとき、結実香はタオルを湯船につけて遊んでいた。

 それに気づいたのは達磨が自分の髪をシャワーで流そうとしたとき。バシャバシャと水音が激しかったので、達磨は片目だけ開けた。


「結実香ちゃん、それはやらないように言わなかった?」

「楽しくて、つい・・・・・・」


 結実香にテヘペロとされると、許してしまいそうになる。

 湯船に沈んだタオルを拾い、ぎゅっと絞ってから、結実香を湯船から出して、髪を洗い始めた。

 入浴したおかげで全身温まり、達磨はドライヤーで結実香の髪を乾かしている。


「熱くない?」

「うん、平気だよ!」

「もう少しで終わるからね」

「うん!」


 最初の頃はドライヤーを嫌がっていたのに、数日後には大人しく座っている。

 髪を乾かした後に結実香はなぜかいつも達磨に抱きついてくる。


「結実香ちゃん、どうしていつも乾かしてから抱きつくの?」

「だっていい香りがするんだもん!」

「そうなんだ」


 なるほどね、香りを堪能するためか。

 結実香と違うシャンプーとリンスを使用しているから、結実香の髪は甘い香りがする。


「達磨、ゲームをしよう!」

「いいけど、宿題は?」

「もうやったよ」

「明日の準備」

「それもやった。給食セットも忘れずに入れたよ」

「いい子だね。じゃあ、ゲームをしようか。何がいい?」


 結実香がやりたがっていたのはしりとりだった。達磨はてっきり携帯型ゲーム機で遊ぶのだとばかり思っていた。

 じゃんけんで結実香が先にやることになった。


「じゃあねー、お風呂!」

「蝋燭」

「草」

「魚」

「な、な、納豆」

「歌」

「えっとね・・・・・・あ!達磨!」


 名前を呼ばれた達磨が結実香を力強く抱きしめると、結実香は嬉しそうに微笑む。

 前まで子どもが好きではなかったのに、達磨は自ら結実香に話しかけたり、世話をするようになったので、達磨自身驚いている。


「達磨、大きいねー」

「結実香ちゃんが小さいんだよ」

「だってまだ小学生だから。七歳だもの」


 小学生。懐かしい響きで、達磨が自分が小学生だったときのことを思い出していると、結実香に名前を呼ばれた。

 どうやら何度も呼んでいたらしく、急いで返事をした。


「何?」

「だから、私がやりたいゲームに付き合ってくれたから、今度は達磨がやりたいゲームに付き合うの!」

「しりとりはもういいの?」

「うん!達磨、何がいい?」

「持ってくるから、ちょっと待っていて」


 達磨は自分の部屋から携帯型ゲーム機を片手に居間へ行くと、結実香はソファの上で猫のように丸くなっていた。

 顔は見えないが、少し眠そうだった。


「お待たせ。結実香ちゃん、眠い?」

「眠くないよ!」

「ゲームは明日でもいいよ」

「駄目なの。達磨、ゲームをするよ」


 ゲーム機の中に入れているゲームは主人公が仲間達と一緒に敵キャラクターと戦ってレベルを上げて、ストーリーを進行させるゲーム。

 まだやり始めたばかりのゲームだった。


「結実香ちゃん、先にやる・・・・・・あれ?」

「むにゃ・・・・・・」


 結実香はすっかり夢の中へ行ってしまっている。

 やっぱり強がっていて、お腹を出して眠っているので、パジャマをきちんとしてから、結実香を達磨の部屋まで抱えてベッドに寝かせる。


「あんなに騒がしくしていたのに・・・・・・」

「ん・・・・・・達磨・・・・・・」

「ごめん、起こした?」


 しかし、結実香は何の反応も示さずに眠ったままだった。

 夢の中にも自分がいるのだと思うと、達磨は不思議と嫌な気分ではなかった。


「おやすみ、結実香ちゃん」

「にゃ・・・・・・」

「くくっ・・・・・・」


 猫の鳴き声みたいで達磨は笑いながら、結実香を腕に抱いて、双眸を閉じて、意識を放した。



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