8.たっち → あんよは 一瞬でした
シンが生まれてから、約1ヵ月。精霊王達が生まれてから2週間ほどたったある日。
見回りから帰ってきた聡がソファーに落ち着くと、みさとがお茶ののったトレイを手に台所から出てきた。
「どうだった?」
「ん、大分植物の種類が増えてた。きれいな花もあったぞ」
「わぁ、後で見に行こう。さあ、みんな、おやつよ~」
みさとが、遊んでるシンと精霊王達に声をかけると、「は~い」とかわいい合唱が聞こえる。
シンは、抱き上げようとするクロくんとキンちゃんにイヤイヤをすると、すくっと立ち上がり、そのままとてとてっとソファーに向かって歩いた。
はじめてのたっち → あんよに呆然とする聡とみさと。精霊王達は、感動で目をうるませている。あと、一歩で聡に届くところで、シンはよろめいた。
目の前でよろめくシンに、聡はあわてて手をさしのべる。抱き上げてひざの上にシンを座らせると、一同から安堵のため息が出た。
「シン、初めてたっちしたら、そのまま歩くなんて、びっくりさせるなよ」
苦笑する聡に、シンはドヤ顔をかえした。その瞬間、まばゆい光がシンを包み、一同は目をあけていられない。しばらくして光が落ち着いたので、目を開けると、聡のひざの上のシンは、2歳児くらいに成長していた。
「とーしゃま」
「おっきくなったなぁ、シン」
聡が、頭をぐりぐりなでると、シンはきゃっきゃと笑った。みさとと精霊王達も駆け寄る。
「かあしゃま!」
シンはみさとに両手をさしだして、だっこをせがむ。
「シンちゃん、重くなった~」
みさとが笑いながら、シンを抱えなおした。シンは、みさとのうでの中から、精霊王達を見回す。
「またせまちたね。このしぇかいのこと、たのみましゅよ」
シンの言葉に、精霊王達は言葉もなく、頭をたれた。感無量のようだ。シンは、小首をかしげて、何かを考えている。
「あなたたちのなまえをちゅけなくては。いまのよびかたをなまえにできるもので、いいでしゅか?」
精霊王達は、こくこくとうなづいている。目は期待で輝き、頬は上気している。
「ん~、では、ひはアカギ、みぢゅはアオイ、かじぇはミドゥーリ、つちはチャイ、やみはクロウド、ひかりはキンシャで」
「ありがとうございます!!!!!!」
と、声をそろえていった途端、精霊王達はふわっと淡い光に包まれて、ぐぐっと大きくなった。見た目10歳くらいである。
「ああ、これで少しはシン様のお役に立つことができる!」
「お父様とお母様のお手伝いもできますわ!」
一気に美少年と美少女になった精霊王達に囲まれて、聡とみさとは顔を見合わせた。
「一気に大きくなったな」
「にぎやかでいいじゃない」
「それもそうか。大家族だ」
リビングには、聡とみさとの楽しげな笑い声が響いたのだった。
《シン》
はあ、やっとはなせるようになりました~。