6.育神、はじまりました
ようやく落ち着いたところで、やっぱり広くなっていた建物の確認をする。リビングは、倍くらいの広さになっていた。ソファーセットも立派になってるし、暖炉なんかもあったりする。
「多分、シンちゃんのものもあると思うのよね~」
という、みさとの意見に従い、寝室への扉を開けると、そこは廊下だった。向かい側には扉が2つあり、廊下のつきあたりにあるのは、トイレの扉っぽい。
「おお~、増えてるな」
手近な扉を開くと、主寝室で、部屋の広さもベッドの広さも、グレードアップしてた。
「わ~、憧れのウォークインクローゼットぉ~!」
ひょいと腕の中のシンを聡に渡すと、みさとは嬉々としてクローゼットの中へと駆け込んだ。
「かかってるのは、同じ服なんだけどね」
と言って着ている服をつまむ。絹のような柔らかな生地の、生成りのチュニックの下に濃い色のスキニー。聡は、Tシャツにズボンだ。それが、ずらっと両側にかかっている。
その下には、整理ダンスもあった。
「う~ん、シンちゃんの服は別か~」
一通り、確かめ終わってつぶやいたその時、シンの泣き声が響き渡った。
「みさと~、助けてくれ!」
情けない声に、あわてて戻ると、シンのもらしたもので、びしょ濡れの二人がいた。
「やられた」
吹き出しそうになるのを、こらえながら、みさとは動いた。
「二人ともお風呂!シンちゃんはおぼれるから、洗面器よ!着替え持ってくから」
わたわたとお風呂を目指した聡を見送って、みさとはシンの部屋を探すことに。隣の部屋へと続く扉を開けると、案の定そこは子ども部屋。
「うっわ~、夢の子ども部屋だわ」
パステルカラーの星やら花やら動物で溢れかえった部屋に、思わずうっとり見入ってしまうが、この部屋に来た目的を思い出し、シンの着替えその他もろもろを探し始める。
「え~と、必要なものは、と。あ、オムツとおしり拭き発見!従姉の赤ちゃんお世話しといてよかった~。うわっ、服、ちっさ~、かわい~!」
かわいい服にテンションも上がり、お風呂場へ向かう途中で、聡の服のことも思い出し、クローゼットへ取って返すみさとであった。
広くなった脱衣所で、聡は、あせっていた。ぬれた服は脱ぎにくい。やっとのことで、服を脱ぎ終わると、泣き続けているシンをくるんだ、これまた濡れているベストをはがす。ぐずるシンを抱えて、これまたグレードアップしてた風呂場にとびこむ。あわててシャワーをひねれば、冷たい水で、ますます焦る。
「冷てっ!ああ、よしよし。もうすぐだぞ」
必死にシンをあやして、みさとに言われたとおり、洗面器にお湯をためてシンをいれる。
最初はびっくりしていたシンも、気持ちよさがわかったらしい。うっとりとしはじめた。
「気持ちいいか?」
手のひらに載るくらい小さな頭を支えながら、お湯をかける。手の中の小さな命が愛おしい。
「早く大きくなって、いっぱい遊ぼうな。坊主」
「聡~、そろそろシンちゃんいいんじゃない~?」
みさとの声に応えてドアを開けて、シンを受け渡す。さりげなく聡から視線をそらすみさとに、聡はプッと吹き出した。
自分もシャワーを浴びて、スッキリしたところでキッチンへ水を飲みにいくと、シンを抱いたみさとが、ミルクを作っていた。
「神様でもミルク飲むんだな」
「ん~、ミルクそのものじゃなくて、飲ませる行為が重要なんじゃない?」
聡があやすとシンはきゃっきゃと喜ぶ。みさとが、ふと考え込む。
「新生児ってさあ、普通こんなに笑わないよね…」
「よくわからんが、神様だからいいんじゃないか?」
「…それもそっか」
顔をあわせて、笑った。
育神、始まりました。
《シン》
おフロきもちよかった~。だっこでミルクもさいこ~。