5.はじめまして
翌朝、初めての朝というこっぱずかしいイベントを乗りきって、みさとと聡はタマゴの前にいた。
「おお~、ヒビが入ってる」
「ああ~、うれしいけど、うれしくない~。何でヒビが入ったのか、考えたくない~」
みさとは頭をかかえた。
「そりゃ、やることやったからだろ」
「だから~!何でそうあからさまに言うかな?!」
「事実だろ」
「もうちょっとオブラートに包んでよ!シンちゃんがまねしたらどうするの!?」
「…へぇ、母親になってきたな」
「聡は、父親の自覚持ちなさい!」
「わかったよ、じゃご飯にしよう。お腹へった」
にへらっと笑った聡に、ブツブツ言いながらも、みさとはキッチンへと向かう。何のことはない。彼女もお腹が空いていたのだ。
ささっと、朝食を食べた後、二人はリビングのソファーに座った。もちろん、二人の間にはタマゴ。さっき見たときよりヒビが多くなっている。
「シンちゃ~ん、もうすぐ会えるね~」
みさとがタマゴをなでなですると、タマゴがゆらゆらと揺れる。
「見た?動いたよ」
頬を染め、嬉しそうに言うみさとに、聡は目を細める。
「ああ、もうすぐだな。シン、早く出て来い。父さんと母さんが待ってるぞ」
聡も、みさとと一緒になってタマゴをなでると、揺れが大きくなってきた。
「お」
「もしかして…」
激しかった揺れがぴたっと止むと、タマゴがかっと光った。
今までになく強い光りが収まったあと、ゆっくりと目を開けた二人が見たのは、タマゴのかけらの上に寝ている赤ちゃんだった。ほわほわの髪の毛は黒、肌の色は黄色人種、多分瞳も黒だろう。見かけは思いっきり聡とみさとの子どもだ。
呆然と赤ちゃんを見つめる二人。と、シンが泣き出した。我に返った二人は、あわててシンを抱き上げる。片手に頭が収まるくらいに小さい。人間の新生児と同じなのだろうと、聡は思った。
「さ、聡。なんか着るもの…!」
「お、おう。とりあえず、俺のベストでいいか」
あわてて聡の脱いだベストにくるむと、みさとが胸に抱き寄せた。ぐずるシンをゆすっていると、しばらくして泣き止み、みさとと聡を見上げる。
「はじめまして、シンちゃん。お母さんよ」
「よう、シン。俺が父さんだ」
みさとと聡が、シンを覗き込むように声をかけると、にこっと笑って両手をのばしてくる。
みさとと聡が指を差し出すと、小さな手がにぎった。
「うわあ、ちっちゃい。かわいい…」
みさとが歓声をあげると、シンもうれしそうに声をあげた。
「ホント、ちっちゃいな~。よし、お前も母さんもいっぱい愛してやるから、早く大きくなるんだぞ。っててっ!」
「だから、そういうこと言わないの!」
みさとが頬を染めて聡の足をぐりぐり踏んでいる。
「家族を愛して何が悪い。な、シン?」
「もう!」
シンごと聡に抱え込まれて、みさとも笑ってしまった。シンもきゃっきゃ言っている。
「みさと、シン。今日から俺たちは親子だ。愛のあふれる家族になろう」
「ええ」
見詰め合う聡とみさとの腕の中で、シンも答えるかのように、声を出して笑った。
《シン》
お父さんとお母さんにやっと会えた~!




