3.海辺の町
お久しぶりです
乗り合い馬車を乗り継ぎ、時々休憩をしながら海辺の町へと移動すること数日。一行はやっとこ目的地である海辺の街へとたどり着いた。
「…う、う~~。お尻が痛い~」
「まあ、おか、お姉さま。大丈夫?」
リンに手をひかれて、よろよろと馬車をおりるみさとをよそに、男性陣は雄大な景色に歓声をあげている。
ちなみに、4人の関係は若夫婦(聡とみさと)とその弟妹ということになっている。宿では一応男部屋と女部屋に別れるが、後でシンが女部屋にやってきて、みさとがポイっと聡のもとに送られるのが常だった。
レンとランも砂浜を嬉しそうにかけずりまわっている。ずっと馬車の中で、おとなしくしていたので、身体を動かしたかったのだろう。
ひとしきり浜辺と景色を堪能した一行は、神殿経由で予約していた宿へと向かう。船着場からちょっと離れた岬にある宿だ。
「きゃぁ、素敵!木々の向こうに海が見えて、いいわぁ」
「本当、絵みたい〜」
「お気に召していただけて、ありがとうございます。鳥やリスなんかもすぐそこまで来るんですよ」
みさととリンが、外の眺めにキャッキャしてると、若い仲居さんがお茶をいれながら、説明してくれた。
「「へ〜」」
うなずく2人をよそに、男2人は出されたお菓子にかぶりついている。お気楽である。
「あ、緑茶!うれしい。このお部屋も落ち着くわ〜」
和風なお宿に、みさとのテンションは上がりっばなしだ。
もともとアジアっぽい東の国の中でも、海辺の町は、日本色が濃いのだ。聡とみさとの知識が元だから、それも当然なのだが。
岬に建つ瓦屋根の日本家屋、林+竹林付き。
これでテンションが上がらない訳がない。
だから、みさとは庭先から聴こえてきた鳥の声に連想した事を口にしたのだった。
「鳴くよウグイス「平安京」」
ギギギと首を回し、重なった声の主を探す。
キョトンとするシンとリン。聡の口にはお菓子が詰まっている。
やっちゃった顔の仲居さんと目が合うなり、みさとは突進した。
「あなた日本人ね‼︎」
「て、転生者です〜‼︎」
みさとの怒涛の質問に観念した仲居さんは、身の上を語った。
「へー、前世は天寿を全うしたんだ」
「はい、特に未練もないですし、普段は前生の事なんか忘れてるんですけど、たまに、ポロッと出てきて…。子供の頃は、落ち着きすぎて子供らしくないって、浮いてまして」
「まあ、大変だったわねぇ」
シンとリンがゆったりと話を聞いている横で、聡は舞い上がったみさとを落ち着かせるのに苦労している。
「だって聡、日本人よ日本人‼︎」
「元ね。今は、ここの人だろ?」
「も〜う、聡、落ち着きすぎ〜!」
そんな聡とみさとのやりとりに、仲居さん改めユイさんが心配そうに目をやった。
「あ、あの2人はいつもの事だから大丈夫だよ」
「そうそう、気にしないでね〜」
シンとリンの言葉に、ユイはホッと息をついた。
「あのお二人は、日本人なんですよね」
「そう、転生者じゃなくてえ〜とトリップ?になるのかな」
「トリップ…。苦労されたんでしょうね…」
ユイの言葉に、ビミョーな表情のシンとリンが顔を見合わせた。
「苦労…したのかなぁ?」
「ちょっとは、したはず…ですよねぇ?」
「うーん、最初にちょっと落ち込んだけど、すぐに立ち直って、ここの生活エンジョイし始めたからなぁ」
「まあ、お母さまとお父さまですから」
「そこ!無理やりまとめないの。ユイちゃん混乱してるじゃない」
うなずき合うシンとリンに、頬を膨らませたみさとがかみついた。
お父さまとお母さま?と頭の中に疑問符がぐるぐる回っていたユイに、シンが全部説明しちゃえ!と話し始めた。
話が進むにつれ、ユイの顔色は赤くなったり青くなったりと忙しい。どうやら、前世の記憶と今世の常識とがせめぎあっているらしい。最終的に、前生の記憶が勝ちをおさめ、みさとに速攻友達認定されていた。
「きゃぁ!これで日本の話ができるわ〜!そうだ、どうせだから私達のところに来なさいよ‼︎」
というみさとの勢いにユイがつい頷いてしまったのは、仕方がないというものだ。
かくして、ユイは神族へと迎え入れられることになるのであった。




