2.海辺の町
さて、行き先も期間も決めていないとはいっても、それは聡の中での話。
翌日から、聡は絶えず誰かに引っ付かれて、行きたい場所のプレゼンテーションを聞かされることとなった。
二日目にギブアップした聡は「行き先と順番は、皆で決めてくれ」と、言い残して、フラフラとみさとに連れて行かれた。今晩はなだめてもらうのだろう。
決めてくれといわれた神と精霊王たちは、アピール合戦を繰り広げ、なかなか意見がまとまらない。5日目にして、ついに公平に「じゃんけん」で決着をつけることにした。
「やった~!!ぼくがいっちば~ん!」
勝ち抜けたシンの声が神の森に木霊する。踊りだしそうなその姿に、リンは苦笑し、精霊王達は肩を落とすのだった。
シンの希望地は海辺の町。南国のビーチではなくて、東の国の魚が美味しいことで有名な街だ。レンやひ~ちゃんに乗れば、あっという間に着くけれど、それではつまらないと、聡が言う。
「移動時間も旅のうちだよ」
聡の横でみさともウンウンとうなずいていた。シンと精霊王達は、おお~っと新しい言葉にざわついている。
結局、乗合馬車に乗って、普通の人間のような旅をすることにし、神官長に手配を頼むことに。話を聞いた神官長はすっ飛んできた。手配はいいが神の森をもぬけの空にしないでくれと大慌ての神官長に、皆は顔を見合すと、それもそうかと順番でお供することになった。厳ついヒゲの神官長の泣き顔はインパクトがあったのだ。
さて、出発当日。
「じゃあ、行ってくるね。あとよろしく~」
と、聡が手を振った瞬間問題がおきた。
「離れなさい、レン!」
「私はシン様の神獣です。一緒に行きます」
レンがガッチリとシンの腰にしがみつき離れないのだ。
やれやれと、みさとを振り返れば、リンと二人でほだされ中。
「お母さま達とご一緒出来ないの、寂しいです」
「まあ、ランったら」
「ランちゃん…」
ウルウルお目々で小首をかしげたランに見上げられて、もう陥落寸前。
「は~な~せ~!」
「い~や~で~す~!」
シンとレンの攻防に聡はぷっと吹き出した。
「いいよ。レンとランも一緒に行こう」
「「おとうさま~!!」」
今度は聡がレンとランに抱きつかれる番だった。
そ んなこんなで、残る皆の生暖かい目に見送られながら、やっとこさ出発。神殿の前から、東の国行きの乗り合い馬車に乗る。泣きそうな神官長と、笑顔の町の人たちに見送られて、馬車はゆっくり走り出した。
レンとランは、仔犬サイズになってみさととリンの腕の中だ。犬が苦手な人が乗ってきたら、ちゃんと用意した籠に入ることになっているが、子どもや女の人たちから、だっこさせて光線が出ているので、当分必要なさそうだ。
ちなみに、今回4人は新婚の若夫婦とその弟妹という事になっている。
「にいさん、東の国までは、どのくらい?」
「ん~、休み休みだと、8日くらいかな」
「割と近いのね」
「海辺の町までは、そこから更に5日だ」
「…そう近くもなかったわね」
「お姉さん、移動時間も旅のうちなんでしょ?」
「言ったわね、確かに」
ちょっぴりテンションの下がったみさとの顔を、腕の中のちびレンはそっとなめたのだった。




