1.旅のはじまり
お久しぶりです。思いついたときに更新しますので、不定期更新です。よろしければお付き合いくださいませ。
のどかな春のある日。
風に乗って、ハラリと舞う薄紅の花びらを見つめていた聡は、ふとつぶやいた。
「そうだ、旅に出よう」
とーー
「何〜?聡ったら自分でナレーションつけちゃって〜!それもどっかのコマーシャルみたいなこと言って」
向かいのソファーで、お茶を入れていたみさとがアハハと笑うので、聡は首をかしげた。
「んー、気分?」
「ふ〜ん、旅の気分?」
「そんなとこ」
「そっか。はい、お茶」
「ん」
みさとからお茶を受け取り、飲もうとしたら、急に背中から重いものがのしかかる。
「旅行に行かれるので?」
「…レン、重いよ」
聡は震える手で何とかお茶をテーブルに置き、よっこらせとレンを背中から足下におろすと大きな息をついた。レンは嬉しそうにシッポを振って、されるがままだ。
「…ったく、レン、自分の体重考えて行動しろよー」
「これは、申し訳ないことを」
今気がついたとばかりに、神獣レンが、聡に頭を垂れる。
「で、旅行に行かれるので?」
「ぶれないね、お前も」
キラキラした期待の眼差しに、聡は苦笑した。
「ん、ちょっと考えてる」
「そうですか!それは楽しみですね」
グリグリと聡の手のひらに頭を押し付けながら、レンはご機嫌だ。その様子を見ながら、みさとはのんびりお茶を楽しんでいた。
やがて、賑やかな足音と声が、近づいてきたかと思うと、シン達が飛び込んできた。
「父さま、旅行行くんだって!?僕も行く!!」
「「「「私たちも!!!!」」」」
聡とみさとは、あっと言う間にシン夫婦と精霊王達にかこまれてしまった。
「いつ行くの?」
「行き先はどちらへ?」
「海に行きませんか?」
「あら、高原がいいのでは?」
「え~、田舎はいやだ~」
「…北の国に図書館が出来たそうで…」
「西の国には博物館とやらがあるそうです」
「あ~、いっぺんに話されてもわかんないよ。一人ずつにしてくれ!」
聡の一言で、ようやっとみんなが黙ったのだった。
「何で、旅行行くってわかったんだよ」
「ん、この子達が教えてくれたんだよ」
といって、シンはふよふよとそこら中に浮いている生まれたての精霊達を指差した。
「こいつらか」
ため息をつきながら、聡は目の前を通り過ぎる精霊をツンとつついたのだった。
「今回の旅は、特に目的地も期間も決めないで行こうかとおもってるんだ」
結局全員でのお茶会になり、各自お茶が行き渡ったところで、聡が話しはじめた。
「目的無しですか?」
シンがちょっと目を見開いた。他のみんなも、不思議そうに聡を見る。
「うん。時間はいくらでもあるし、ここで特に仕事があるわけじゃない。ぶらっと世界をみてこようかなぁ~と」
「うふふ。黄門様みたい。世界漫遊ね」
みさとの言葉に聡以外は、全員一斉に首をかしげた。その様子にみさとは吹き出し、お茶をこぼしそうになったのを、かろうじてこらえたのだった。
いつの間にか、みさとのひざの上にちゃっかりと陣取っていたレンのつがいであるランに顔をなめられて、ようやく落ち着いたところで、みさとが皆に解説する。
「あはは、大昔ね、黄門様って言うえらいおじいさんが、身分を隠して国中を旅して悪を懲らしめるっていうお話があったのよ。それを思い出したの」
「略しすぎだろう、それは」
「でもまちがってないでしょう?」
「まぁ、それはそうだが…」
複雑そうな聡ところころ笑うみさとに、皆の首の角度はますます深くなるのであった。




