22.チビの大冒険
お久しぶりです。
まだ夜も明け切らぬ薄暗い廊下を白い仔犬がとてとてと歩いている。
彼の名はロン。レンとランの間に150年振りに生まれた末っ子である。
久しく幼子のいなかった神の家の人々(と動物たち)にベタベタに猫可愛がり(犬だけど)されている彼は、「小さいの」とか「チビ」と愛情込めて呼ばれていた。
まだ幼い彼は何も考えず素直に受け入れているが、もう少ししたら「僕はチビじゃない」と反抗することになるのだが、それはまた別の話。
さて、ロンことチビは神獣•聖獣がみなそうであるように、お父さまとお母さまが大好きである。
たまたま早くに目覚めてしまったチビは、お父さまとお母さまに遊んでもらおうと二人の部屋までお尻と頭を(自動的にしっぽも)振りながらやってきたのであった。
お目当てのお父さまとお母さまの部屋の扉の前に来ると、ちょこんと座ってくうんと小さく鳴いた。いつもこうして鳴くとドアが開いてお父さまかお母さまが抱き上げてくれるのだ。
「…?」
しばらく待つも音沙汰なし。チビは首をかしげた。聞こえなかったのかと思い、もう一度鳴いてみた。
…。
誰も出てこない。朝早すぎて、お父さまとお母さまがぐっすり眠っているなんてことは、小さなチビにはわからない。今チビの頭には、お父さまとお母さまに遊んでもらうことしかないのだ。
扉があかないので、チビは自分で開けることにする。頭で押してみた。が、開かない。
耳をペタンとし、小さくうなった。じっと扉を見つめる。
不意に扉の端っこについてる取っ手が下になると扉が開くことを、チビは思い出した。だからあの取っ手を下げようと、チビは立ち上がって前足を伸ばす。
身長はまったくもって足りなかった。一生懸命足を伸ばしても、取っ手までの半分位だ。
チビは考えた。跳んだら届くかも。
…届かなかった。
チビは再び考えた。それはもう一生懸命にだ。やがて、走って勢いをつけたら、届くかも!と考えついたチビは、早速実行にうつした。
1度目は前足が取っ手をかすめた。もう少しと挑んだ2度目、ふわっとふいた風にのってチビは取っ手を下げることに成功する。
カチャンと取っ手が下がり、チビのぶつかった勢いで、扉がホンの少し開いたのだ。
ポテンと扉の前に転がったチビは、すばやく起き上がると振り切れんばかりにシッポを振りながら、お父さまとお母さまの部屋へと入っていった。
シッポを振る反動で頭を揺らしながら、チビはお父さまとお母さまの眠るベッドへと急ぐ。
ベッドの下でいつものように呼んでも、二人は起きてこない。何度も言うが、今は夜明け前。深く眠る万年新婚夫婦のお父さまとお母さまが起きるわけはないのである。
何回か呼んでチビはしびれを切らした。ベッドの上に行って、お父さまとお母さまに遊んでもらおう!そう思いついたチビは、たしっと前足をベットにかけた。今回は前足がベッドの上まで届いた。が、そこからどうにも動きがとれない。身体が持ち上がらないのだ。ついには、シーツごとズルズルと落ちてきてしまった。あとちょっとなのに…。さっきと同じように跳んでみたが、身体を持ち上げるまでには至らず…。
このままではダメだと悟ったチビは、踏み台があればいい!とキョロキョロと辺りを見回す。ウォークインクローゼットの片隅にタオルが積んであるのを発見すると、口にくわえて引っ張ってきた。何枚か重ねたが、タオルに乗っかると沈んでしまう。チビはタオルのわっかの中で、他に使えるものがないかと見回すのだった。
高さの良さそうな紙の箱はくわえることが出来ずに、歯型がついただけ。たんすの引き出しは重くて動かずヨダレまみれになっただけ。最終的にソファーのクッションを運んできて、チビはその高さに満足した。
クッションをベッド下に置き、ポンポンと足でたたいて確認すると、チビは意気揚々とその上に乗り立ち上がった。今度は顔がでて、お父さまとお母さまの姿が見える。チビの顔はぱあっと明るくなり、その尻尾は千切れんばかりに振られる。チビはお父さまとお母さまに早く会いたくて、前足にぐっと力をこめた。
ちょっと後ろ足がじたばたしたけれど、無事にベッドの上に上ったチビは、うれしくてお父さまとお母さまの体の上をかけのぼった。
「わ、なに!?まあ、チビちゃんじゃないの!」
「おいおい、落ち着けって」
お父さまとお母さまの苦笑に迎えられたチビは、二人をてしてしと叩き、その顔をぺろぺろなめるのであった。
「チビちゃん、まだ早いから一緒に寝ましょうね」
お母さまにそう言われたチビは、自分があふっと盛大にあくびをしてることに気が付いた。お父さまとお母さまの真ん中に入れられたチビは、あっという間に夢の中。
くすっと笑うお父様の目線の先には、扉からのぞいてすまなそうに頭を下げるレンとランの姿。小さな末っ子が心配で仕方ないようだ。わからないように手助けもしていた。お父さまとお母さまも途中から起きていたが、危なくない限り好きにさせようと見守っていたりする。
こうして、小さなチビの大冒険は、皆に(こっそり)見守られて、無事に成し遂げられたのであった。




