17.あどけない瞳
ある朝、目覚めたみさとは違和感を感じた。
(あれ~、聡が抱きついてない…?)
ぐるりと後ろを向くと、なぜか3歳くらいのシンが眠っている。
「シンちゃん、どうしたの?ちっちゃくなっちゃって。リンちゃんは?」
揺すって起こすと、不機嫌ながらも目覚めたようだ。
「にぇむい…」
「シンちゃん、ほら、ちゃんと起きて」
みさとの声にパチリと目を開いた。
「ちがう、シンちゃんじゃない」
「えっ…」
みさとは嫌な予感に顔をひきつらせた。
「じゃあ、ボクのお名前は?」
「しゃとし、しゃんしゃい!」
そう言って、彼はどや顔で指を2本立てたのだった。
「うわ~、ボクって父親似だったんだぁ」
思わずもれたシンの感想に、周りの神族と精霊王達はうんうんと同意した。
言われた当の本人・聡は、みさとの膝の上に乗っかって美味しそうに朝食を食べていた。みさとは片手で聡の面倒を見つつもう片手で自分の食事をとるという、難しくも懐かしい技を駆使している。
「それにしても、何で小さくなったんでしょう?」
チャイの疑問に、全員が首をかしげる。
「しかも大人の時の記憶が無いみたいだし」
「「「「う~ん」」」」
ミドゥーリの言葉に、全員の首が更に傾いでいく。
そこへ遅れたクロウドとキンシャが食堂に入ってきた。
「ねぇ、誰か緑色の小瓶知らない?ゆうべ研究室に片付けたはずのがないんだよ」
「…それってこれくらいで取っ手のついてるの?」
みさとが片手で大きさを示すと、クロウドがぱっと顔を明るくした。
「そう、そうです!お母さま、どこにありました?あれ、飲むとどうなるかわからなくて…」
「…ゆうべ、聡が寝る前に飲んでた…」
「「「原因はそれか~!!」」」
頭を抱えるみさとの膝の上で、聡はご機嫌だった。
それから、クロウドとキンシャとシンが瓶に残っていた薬を解析した結果、まあ今日一日で薬の効果は切れるだろうということがわかった。
「というわけで、今日は一日お父さまの子守をお願します、お母さま」
「仕方ないか~、久々の子育て復活だわ~」
ため息をつきながらも、みさともちび聡のお世話に満更でもない顔だ。早くも女性陣は聡とみさとの周りを囲んでいる。なんだかんだ言っても、小さい子はかわいいのだ。しかもちび聡は女性の母性本能をくすぐる術を知っているらしい。みんなにかまわれてキャッキャと笑い声をあげ、時折恥ずかしそうにみさとにしがみつく姿に、女性陣はハートをがっちりつかまれている模様。
「小さくてもお父さまはお父さまだな」
「うむ、女性陣は中身がお父さまだと忘れているようだが…」
「あれが、お父様が言ってたハーレム?」
男性陣がこそこそとそう話していたことを、女性陣が知ることはなかった。
女性陣にいっぱいかわいがってもらったちび聡は、外に行きたがった。
外に出ると、庭でくつろいでいる聖獣たちに目をキラキラさせて飛び出しそうになるのを、みさとが押しとどめる。
「聡、いきなり飛びついたらビックリするでしょ?ご挨拶してからね」
「ふぁい」
うずうずしながらレンの側に連れて行ってもらうと、ちび聡は大きな声で挨拶をした。
「ぼく、しゃとし、しゃんしゃい!」
もちろん指は2本である。レンはその指とちび聡を見比べながら、後ろのみさとをチラッと見た。
「レンです。お母さま、このお子は?」
「あ~、薬で今日だけちっちゃくなった聡よ。よろしくね」
「は、薬で、ですか。では、動物達にそう伝えておきます」
「よろしく」
レンとみさとの話がつく頃には、ちび聡はレンによじのぼっていた。
「うわ~、しゅごい!かっこいいでしょ~」
ドヤ顔でご満悦のちび聡の姿に、みさとは最初にレンにまたがった時の聡を思い出し、さすが同一人物だと感心するのだった。
その後も、ひーちゃんに乗っては首を締めそうになって放り出されそうになったり、ブランのしっぽでの滑り台に夢中になったりと、はしょぎまくるちび聡にみさとは振り回されっぱなし。
さすがに3歳児の体力では、そう長い時間持つはずもなく。いつもより早い時間の夕食の席で、ちび聡は、半分眠りながら口を動かしていた。
「あらあら、ちっちゃなお父さまはもうお眠ね」
「そうね、聡。ご馳走様にしようか」
チャイとみさとが片付け始めた。握り締めたフォークをはずされ、お口を拭かれてもちび聡はされるがままだ。
みさとが抱き上げると、首に抱きついてきた。
「やっぱりお父さまはお母様が一番ね」
くすくす笑うチャイに後を任せて、みさとはふにゅふにゅ言ってるちび聡を寝室へと運ぶ。
「うふふ、かーわいい」
今晩は、いつもと反対に聡を抱き枕にしようとひぞかに企むみさとであった。
ちなみに、翌朝起きたらやっぱり抱き枕になってたみさとでした。




