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16、祝いのことば

 今日は朝からみさとと聡はバタバタと動いていた。結婚式に顔を出すための支度に大わらわである。

 二人から五代ほど離れた末裔である巫女の娘が、東の国の王子に見初められ嫁ぐのだ。

 幼き頃から誰よりも可愛がってきたみさとは、かねてより絶対に結婚式に出席すると娘と約束をしていた。会場が東の国だろうがなんだろうが行く!と宣言したときから、聡は巻き込まれることを覚悟したのだった。


 みさとはいつもの着心地のいいシンプルな服ではなく、豪奢なドレスを身にまとう。神たるシンの親であることを強調したドレスを。聡も、合わせた礼服に身を包むと、化粧をはじめたみさとの元へとやってきた。


「見違えるな、みさと」


「あら、聡もね」


 軽口を言いながらも、みさとの化粧の手は止まらない。側についたキンシャのアドバイスを聞きながら、威厳のあるメイクを施していく。眉はりりしく、アイラインは理知的、頬紅はシャープに。最後にすこし濃い目の口紅で完成だ。


「ふう、こんなもんかしら。なにしろ、あの娘の今後がかかってるんですもの」


「いいんじゃないか?これなら、東の王族もひれ伏すだろう」


「ええ、とても神々しくていらっしゃいますよ」


 聡とキンシャのことばに、みさともうなずいた。キンシャが髪の毛をまとめてくれたので、手持ちの宝石を髪に着けてゆく。宝石は、ブランやレンが出先で綺麗だからお母さまにと拾ってきたものだ。彼らは、自分の拾ってきたものが人間達の間でどれだけ価値があるのか、まったく気にしていない。彼らと小さい子供達がこれで遊んでいたりするのを見た神官長が絶叫したこともあった。

 聡の服のカフスにも宝石をつけて、2人の準備は完了だ。


 玄関へと向かうと、いつもの2人とは全く違う様子に、皆が感嘆の声をあげた。


「お母さま!ステキ!!」


「かあ様、がんばったねぇ」


 しみじみとシンがつぶやけば、みさとは鼻息も荒く握りこぶしに力をこめた。


「あの娘の一生がかかってるんですもの、ドレスだろうが化粧だろうが使えるものは使うのよ!」


「うわ~、超本気。かあ様はあの巫女ちゃん、本当に気に入ってるんだねぇ」


「ホントは神の森に来てほしかったけど、相思相愛を引き裂くわけにはいかなかったの」


 ちょっぴり残念そうなみさとを聡がうながす。


「そろそろ行くぞ。ブラン、頼む」


「おまかせを」


 白竜ブランがすいっと玄関の外に出た。猫ほどの大きさからみるみる大きくなり、最終的には庭いっぱいになる。

 聡とみさとを背にのせると、ふわりとブランは飛び立った。お母さまとお父さまに負担をかけるようなマネをするブランではない。揺れも風も感じさせない、超安定飛行である。これにお供のクロウドとキンシャも後を追う。


 東の国までは、通常であれば10日ほどかかるが、ブランの翼であれば半日もかからない。東の国の城が見えてくると、お母さまはキンシャとクロウドに前もって打ち合わせてあったことを頼んだ。


「キンシャ、クロウド。よろしく」


「はい」


 キンシャとクロウドがうなずくと、午後の青空が見る間に闇につつまれた。闇の中をキンシャによるキラキラエフェクトで光り輝く白竜ブランがすすみ、城のバルコニーに、みさとと聡を下ろした。

 これまたきらきらのみさとと聡に向かって、花嫁衣裳の娘が飛び出してくる。


「お父さま、お母さま!」


 娘の初々しい花嫁姿に、2人のほほがゆるんだ。


「まあ、私達の小さな娘が、こんな綺麗な花嫁になって」


「お2人がいらしてくださって、私、わたし…」


 娘の瞳からこぼれそうになる涙をみさとがそっと拭う。聡はおそるおそると言った風に近づいてきた王族たちに視線を移した。


「我らが小さき娘の結婚を見届けに来た。お前が婿か?」


 婚礼衣装の青年に問うと、緊張した面持ちで肯定した。娘が心配そうに青年を見ている。聡がふっと表情をゆるめた。


「お前達のことは、いつでも見ている。忘れるな」


「幸せにね」


 みさとは、娘をぎゅっと抱きしめると、花婿へと引き渡した。


 王族達の前で新郎新婦に祝福を与えた後、キンシャとクロウドに導かれて、2人は、東の国を後にした。


 神の両親に祝福を受けた夫婦は、仲睦まじく末永く幸せに暮らしたという。ときどき神族がお忍びで遊びに来ていたというのはまた別の話。


 







帰宅後、速攻でみさとがドレスを脱ぎ捨て化粧を落としたのは言うまでも無い。

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