15.神の森学園
お久しぶりです。
今日はハッピーバレンタイン。ここ私立神の森学園高校も朝からいつもよりざわついていた。
「おはよー!リン」
「おはよう、シン君。…なに、その手は?」
「えー、ほら♪今日僕に渡すものあるでしょ~?」
「…んもう!しょうがないなぁ。はい!」
「やったぁ!」
ほんのりほほを染めたリンから手渡されたチョコレートを手に、シンは満面の笑みだ。
「はよー、相変わらずリア充だねぇ、生徒会長は」
「おはよー、アカギ。アカギだってもらってるじゃん」
とシンはアカギの手の中の物を指さす。
「こ、ここれは幼なじみのアオイからだから、ノーカンだ!」
アカギはばっと持っていたものを背中に隠した。
「ア、アカギ君、迷惑だった…?」
横にいたアオイの瞳にじわっと涙が浮かぶ。
「メーワクなんかじゃない!スンゲー嬉しかった!だから泣くな、泣くんじゃない!!」
アオイをなだめるアカギはもう必死だ。そりゃもう泣かれたら世界が終わるんじゃないかっていう勢いで。
「アカギだって十分リア充だよねぇ」
「ねぇ」
シンとリンはうなずき合うのであった。
その後も、学園のそこここで、ハートが乱れとび、今は放課後。
「クロウドせんせー、これあげる~!」
「あたしも~」
「はいはいありがとう、早く帰りなさい」
「「は~い」」
女子生徒達がきゃっきゃと帰っていく。科学教師のクロウドはもらったチョコの包みを持っていた紙袋にいれると、図書室へと入っていった。カウンターの司書教諭キンシャのもとへまっすぐ向かう。
「こんにちは、キンシャ先生」
「こんにちは、クロウド先生。今年も大漁ね?」
キンシャが目を細めてチョコの詰まった紙袋に視線を移す。
「全部義理ですよ。本命の人にはまだもらえていないんです」
クロウドがわざとらしくため息をつき、キンシャを見つめる。
「まぁ、それは残念。もらえるといいわね?」
「ええ、それで私としては是非ともいただくべく、これからディナーにお誘いしてその方の心をつかもうと思うんですがいかがでしょうか?」
クロウドがキンシャの耳元でささやく。
「そうねぇ…、どうかしら?」
「じらしますね、お姫さまは」
「じらすのは女の特権よ。私をその気にさせてみて」
「おおせのままに」
クロウドがキンシャの手をとり立たせると、キンシャはするりと腕をからめる。クスクスと笑いながら、二人は図書室を出ていった。
この一部始終を監視カメラで見ていた二組の夫婦がいた。聡とみさとの理事長夫妻と校長のミドゥーリに養護教諭のチャイ夫妻だ。
「へぇ、これはクロウド先生今晩プロポーズかなぁ、校長先生?」
「ほぼ間違いないでしょうね、理事長」
「あら、じゃあ年内にはゴールインかしら、ねぇチャイ先生?」
「十分考えられますわぁ」
「「「「楽しみだよねぇ」」」」
神の森学園は今日も平和だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「という夢を見たのよ」
「なんだ、それは」
朝のみさと堪能タイムを途中で中断され強引に起こされた聡はちょっと機嫌が悪い。
「これは、バレンタインデーを広めろってことかしら?」
「広めてどーすんだよ」
「そしたらスイーツが発展するじゃない!こうしちゃいられないわ、シンちゃんに…」
キラキラした目をして飛び出そうとするみさとを聡はガッチリ抱きしめる。
「まだ早い。もう一寝入りするぞ」
「ちょっ、離してよ!一人で寝ればいいでしょ?」
「ふん」
「あたしのスイーツぅ~!」
神の森は今日も平和だ。
その後。お父様とお母さまの祝日にスイーツを捧げると恋がかなうといううわさが流れ(もちろん意図的に)、スイーツの発展というみさとの願いはかなうのでした。




