13.白銀は誘う
サブタイトルは「いざなう」とお読みください。
たっぷりと南の海を堪能して、神族は神の森へと帰ってきた。季節は冬へと移っている。
「すっかり冬ねぇ~」
みさとが窓の向こうの灰色の空を見上げながらつぶやいた。
「あと3月は、このままだな」
聡が頬杖をつきながら、嫌そうに応える。森の中の巡回を思ってのことだろう。
「そうね~、寒いけど、雪は降らないのよね~」
「雪か…。そういえばずい分見てないな」
「30年くらい降ってないわよ。多分」
「…見に行くか?」
「行く!」
聡とみさとが雪を見に北の国に行くといえば、神族全員が一緒に行くことになる。神族たちは、誰に似たのか、旅が大好きなのだ。
みさとは、スノボにかまくら、雪見酒とご機嫌で準備をしている。その周りでは、雪に反応してレンがそわそわしていた。雪を知らないランは不思議そうにつがいを見ている。
北の国には、50年ほど前に造った別荘がある。もちろん、この地の上級精霊が、別荘番を自任していて、いつでも使えるようになっていた。
上級精霊達は、久しぶりに訪れた神族たちを抱きつかんばかりに歓迎した。
雪に覆われた別荘に、みさとが狂喜していると、それ以上に喜んでいるレンの一家が、駆け回り、ついには雪に突っ込んでいた。
「おお~、犬駆け回り、だな~」
聡のつぶやきにみさとが反応する。
「猫はこたつ…。シンちゃん、こたつだして、こたつ!」
「こ、こたつ…?ええっと…、これかな?」
シンがみさとと聡の記憶から、こたつを見つけて、出した。
「きゃ~!これよ、これ!!」
早速もぐりこんだみさとは、天板に頬をくっつけて、にへらっと笑う。興味津々な子供達も潜り込んできた。布団からはみ出ても喜んでいる。
「おいおい、雪見にきたんだろ?」
聡に言われて、みさとはしぶしぶこたつから出た。
一度外に出てしまえば、テンションは上がりまくりで、みさとは率先して雪遊びを仕切り始めた。そりにスノボに雪合戦。神であるシンをこきつかって道具を出させるのは、みさとにしかできないことだ。
やがて、遊び飽きた一行は雪だるまとかまくらを作り始めた。各家族ごとに競い合って、皆真剣である。
雪だるまは、それぞれ個性が出て、見ていると面白い。ノッポ、まん丸、凛々しいのにかわいいの。
子供達が作った小さい物はほほえましい。
一通り作ったところで夕食の時間となる。上級精霊達が用意してくれた鍋は美味であった。冷えた体も温まり、皆満足そうに笑っている。
子供達を寝かしつけたあとは、お待ちかねの雪見酒タイム。用意したお酒を持って、各自かまくらへと移動だ。
聡とみさとは久しぶりに二人きりでゆっくり酒を酌み交わす。
「あ~、楽しかったぁ」
「体は覚えてるもんだなあ」
久しぶりの地球の遊びに、二人ともハイになっていた。みさとはお酒にほんのり頬を染め、とろんとしている。
「聡、スノボうまかったんだね~」
「100年以上振りだけどな」
「う~、もうちょっとやっとけばよかった。ユキちゃんがね~、上手だったの」
「そうか」
「お酒もね~、よく一緒に飲んだんだ」
みさとがコトンと聡に寄りかかる。
「ホワイトクリスマス、したかったな…」
「ちょっと思い出しちゃったか?」
「…」
みさとは、こくんと小さくうなずいた。
「もうみんな、いないんだね」
目を伏せ、聡の服をギュッと握る。聡は、そっとみさとを腕の中に閉じ込めた。
「そうだな。でも俺はいる。永遠に一緒だ」
「うん」
「今日を俺達のクリスマスにすればいい。ホワイトクリスマスだぞ?」
「うん、うん!」
みさとはクスカス笑い始めた。
「酔ってるな?」
「酔ってないもん」
「赤い顔して」
「かまくらの中が暖かいから!」
「わかったわかった、そういうことにしとこう」
聡がやれやれと笑う。みさとも笑い返す。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
二人は寄り添い、周りから聞こえてくる笑い声に微笑みあうのだった。
100年越しのホワイトクリスマスでした。




