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12.双賢者の養い子

お久しぶりです。

 東の国に珍しい動物を見に行っていたクロウドとキンシャが帰ってきた。

 途方にくれた顔で、キンシャの腕には赤ん坊が抱かれていた。


「どうしたの、その子?」


 女性達がわらわらと二人を取り囲んだ。


「森の周りをうろうろしていた馬にくくりつけられていたのです」


「誰かいないかと探したのですが見つからず…そのままにしておくわけにもいかずに、とりあえず連れてきました」


「まぁ、大変だったわね、いらっしゃい?」


 ベテランママのみさとが赤ん坊を抱いたとたんに赤ん坊は大きな泣き声をあげた。みさとがどんなになだめても、リンや他の女性達が抱いても泣き止まない。

 ふむと考えたみさとはオロオロと見ているキンシャを呼ぶと、その腕に赤ん坊を移した。ぴたっと泣き止む赤ん坊。


「あら」


 再びみさとが抱くと泣く。キンシャに戻すと泣き止む。


「う~ん」


 みさとはキンシャの隣のクロウドをちらと見て、また赤ん坊を抱き、泣き出したところでクロウドへ。あわてふためくクロウドの腕の中で、赤ん坊は泣いていなかった。


「うん、やっぱり。あなた達懐かれたわね~。じゃ、この子の面倒はあなた達に頼んだわ」


 みさとがにっこりとキンシャとクロウドに告げた。


「「お、お母さま!?」」


 うろたえる双賢者に、側で見ていたシンと聡もそれがいいと笑顔だ。


「大丈夫よ、ちゃんと手助けするから」


 みさとをはじめとする母親達はほほえましく2人を見ている。


「まずは、オムツかな~」


 シンの言葉に、あわてて子ども部屋へと駆け込む2人であった。



 赤ん坊は男の子で、ゼンと名付けられた。名付け親は聡とみさと。


「光と闇の子どもだから、全てだろ?だから、全部の全」


 と、聡とみさとしかわからない理由で付けられたが、本人も気に入ったようで、ゼンと呼ぶと「あ~」と応え、皆に喜ばれている。

 クロウドとキンシャの部屋は今までの子ども部屋から一番遠い場所から、一番近い場所に移された。2人の研究中心の生活は、子ども中心の生活に塗り替えられた。

 きままに世界中を旅することもなく、一晩中図書室で読書にもひたれない。夜中に起きてミルクとオムツの世話に追われる日々。


「世の親は、皆これを乗り越えるのか…」


 ある夜中にクロウドが哺乳瓶を手に、感心したようにつぶやいた。目の前にはゼンをだっこしてげっぷさせてるキンシャがいる。2人とも若干目の下の色が悪い。


「親ってすごいわね。見てただけじゃわからなかったわ」


 キンシャがそおっと眠ったゼンをベッドにおろした。ムズムズと動いたが、無事に寝入ったようだ。


「でもねぇ、この顔見ちゃうと、がんばれてしまうの」


「そうだな。まさか自分が夜中に哺乳瓶を持つハメになるとは思わなかったが。いい経験だ」


 2人はゼンを起こさないように小さな声で笑った。



 ゼンはすくすく育った。いつもニコニコして、キンシャとクロウドの子らしくとても賢かった。

 神族みんなにかわいがられて4年たったある日、キンシャとクロウドはゼンをつれて神の森から神殿の町へと移り住む。神の森でこのまま育つのは、人間であるゼンにとってよろしくないからだ。いずれ人の中に入らなければならないのだから、早いほうがいいとのキンシャとクロウドの判断だった。

 神族も、離れるのは悲しいが、ゼンのためだと涙ながらに賛成した。


 3人は神殿の町に小さな家を構え、親子仲良く暮らした。クロウドは請われて神殿と学校の教師になり、キンシャはゼンを連れて買い物をし、家事を楽しんだ。3人は、いつのまにかすっかり町に溶け込んでいた。休みの日に3人で手を繋いで出かける姿は、町の名物みたいなものだった。

 ゼンは2人に愛され、導かれた。時に怒られることもあったが、その後はいつも抱きしめられた。

 それは、ゼンが成長し、独立しても続いたという。2人にとってはゼンはいつまでも愛しいわが子なのだ。


 やがて、ゼンは双賢者の養い子として世界に名を馳せる学者になるのだが、それはまた別のお話。


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