8.ある神官の思い出
今回はいつもとは違って、人間側から見たシン達です。
私が、初めて神獣白のブランに会ったのは、見習いから正神官になり、大神殿に挨拶に来たときだった。
その時は、おそれ多くも神の御親たるお父さまとお母さまがご光臨されていて、私もご尊顔を拝する名誉を得た。
大いなる愛をもって神を育てられたお二人は、慈愛に満ちいていた。
私は、あの時の感動を忘れない。ああ、お父さまとお母さま、私はお二人のしもべです。
さて、お父さまとお母さまにお会いできた後、私たち新米神官たちは大神殿前の広場で引率の神官を待っていた。ふと大きな影におおわれたので、見上げると、大きな白いモノが広場に降りてきた。
真珠色に輝く身体に大きな翼。紅玉の瞳はキラキラと輝いている。神のしもべ、人語を話す聖なる竜。末端の神官である私などは、近づけない神々しさ。それが神獣白竜のブランだった。
ブランは神殿から出てきたお父さまとお母さまに頭をたれ、頭をなでられると目を細めて喜んだ。あの凛々しいブランがここまで心を許すなんて!私はそのときお父さまとお母さまの偉大さに感じ入ったのだ。当時は。
ブランはお父さまとお母さまを背に乗せて、神の森へと帰っていった。
数年後、私は幸運にも大神殿に配置換えになった。そして真実を知ったのだ。
神であるシン様をはじめ、神族の方々がよくお忍びでこの町に来られること。住民達もよく知っていて、神族の方々と普通に接していた。なんと、シン様はシンちゃんと呼ばれている!奥様であらせられるリン様と2人、恋人同士のように過ごされていた。私の中の神様像が崩れた気がしたものだ。
神官長より、お会いしても特別扱いしないようにと注意があった。神族からのお願いなのだという。
それから、私は、様々な神族の方々に遭遇した。
齢70を超えた神官長をちゃん付けで呼び、大きくなったわねえと微笑むお母さま。
町の酒場で、客と一緒にバカ騒ぎするお父さまたち。
リン様と腕を組んでデートするシン様。
店で値切ってた女性達。その荷物持ちの男性達。
広場で駆け回るお子様達と普通犬のサイズになった神獣レイ。(最後はお母さまたちに捕獲された)
普通の家族にしか見えない4大精霊王に巻き込まれて、ピクニックに行く羽目になったり。
双賢者には、ダブルデートにつきあっていただいた。妻と結婚できたのは、双賢者のお陰です。ありがとうございます。
話をブランに戻そう。
誰も見てないと思って、猫ほどに小さくなりお父さまとお母さまに甘えまくっていたブラン。私に見られていたことに気付くと、盛大に慌てていたっけ。お父様とお母さまになだめられ、やっと落ち着いたブランは、お母さまの腕の中から「た、他言無用に頼む」と目線をそらしながら申し出た。お父さまが爆笑する中、私は了承したのだった。
この事があってから、ブランは私を見ると寄ってくるようになった。そんなに念を押さなくても誰にも話さないのに。
お父さまとお母様も私を覚えてくださり、声をかけていただくようになる。お忍びにご一緒したり、ブランに乗って神の森に招かれたりもした。
ブランは私の前では気を使わなくて楽だと神殿に来たときは私の部屋でくつろいでいくようになった。なんと人型になれるのだ!私と同じくらいの青年の姿だった。
これも他言無用だと笑っていた。
いつの間にか、私は神獣白のブランの友と呼ばれるようになっていた。ブランは、まあ友と呼んでやっても良いだろうと悪い気はしていない様子。私はお世話係だと思うのだが。
ブランとの交流を通して、神族と関わることができた。神話で語られる偶像ではない、生きていらっしゃるお姿を拝見した。
皆生き生きとされていた。住人との交流を楽しんでおられた。
「私達はこの世界が大好きなの」
お母さまのこの言葉を、私は忘れない。
ブラン、私の友達。君と過ごした日々は楽しかった。いい思い出だ。私が君のいい思い出になることを願う。
70歳の誕生日に
~ある副神官長の日記より~
大神殿神官の序列について
神官長→お父さまとお母さまの末子の子孫の世襲制。たまに婿もいる。
副神官長→実力でこれる最高位。日記の作者さんはブランとの関係でなったと思ってるが実力もなくてはなれない。




