6.おとうさまとおかあさまの一日
みんなのおかあさま、みさとの一日は、おとうさまこと聡の腕の中から逃れることからはじまる。
聡は抱き枕よろしくみさとに抱きついているので、手足をはずすのに毎朝一苦労しているのだ。
ひとしきりもがいて、ようやく自由になる。一息つくと、ベットからおりてウォークインクローゼットへと向かい、着替えるのだ。
着心地のいいシンプルな服に着替えてる。世界の発展に伴い、服の種類も増えたが、特に予定の無い場合、みさとはこの世界で最初に着た服を選ぶことが多い。
洗面所へ行く途中で、聡を起こすのが日課だ。
聡の朝は、腕の中のみさとの寝顔を堪能することからはじまる。
眠っているときだけ「おかあさま」でもなく「妻」でもない少し幼い「みさと」の顔になる。聡は、この顔が一番好きだったりする。
もぞもぞとみさとの起きる気配がすると、しっかり抱き込みなおし、寝たふりをする。みさとが脱け出そうとじたばたするのが楽しい。みさとがウォークインクローゼットへと向かった後も、聡はベットでごろごろする。至福のときだと思う。
着替え終わったみさとに起こされて、ようやく体を起こすのだった。
階下におり、食堂へと入ると、すっかり朝食の支度が整っていた。昔は、みさとと精霊王達とで家事を分担していたが、4世代同居の現在、女手は足りていた。上級精霊も相当数いるので、みさとは楽隠居させてもらってる。
挨拶を交わし、朝食を食べ始めた。いつもながら、賑やかな食卓だ。なにしろ4世代、40人近い住人がいるのだ。みさとが、ニコニコとみんなを見ていると聡がおりてきた。みさとの隣に腰をおろすと、上級精霊がさっと朝食を差し出した。毎朝のことなので、タイミングはバッチリだ。
食べ終わると、コーヒーや紅茶のおかわりを飲みながら、みんなで今日の予定を知らせあうのが、習慣になっていた。
「今日は、シンと俺は神官長に呼ばれてる」
と聡が言えば、リンと女性陣はちょっと遠方に買い物に行くと言い、精霊王達は、新しい島ができたから見てくる、と、みんな出かけていった。
「あら?珍しく私だけ」
気がつけば1人残ったみさとは、つぶやいた。ちょっと楽しそうである。
後片付けを上級精霊に任せて、ふらりと庭に出る。すいっと聖獣レンが寄り添った。
「おかあさま、お一人とは珍しい」
「ふふ、お留守番なの」
世間話をしながら、森を散歩すること3時間。つがいのランのもとに行くレンと別れて家に戻ってきたみさとは、上級精霊に昼食は自分で作るから、自由にしててと声をかけた。わかったと精霊達が姿を消すと、台所(というか厨房)に入って、なにを作ろうかと楽しそうに食材探しをはじめる。目に付いた朝食の残りを取り出した。
食パンにケチャップと粒マスタードを混ぜて塗り、そこにハム、チーズをのせて焼く。
「うふふ~、なんちゃってピザトースト~」
1人なら手抜き料理~と鼻唄を歌いながら、台所で食べ始めた。たま~に、チープなものが食べたくなるのはなぜだろう?などと考えつつ、昼食を終える。
天気がいいので、庭の泉のほとりのベンチに腰をおろした。木が繁っていい具合に日影になっているのだ。気持ち良くなって目を閉じた。爽やかな風が心地よい。
ふと、ぬくもりを感じたので片目を開けると、足元ではレンとランが、膝の上には猫位の大きさになった白竜のブランがすぴすぴ寝息をたてていた。みさとはくすりと笑うと、また目を閉じる。麗らかな午後であった。
同じ頃、神殿でお茶を振る舞われていた聡は、男性陣に人生の先輩として話をしていた。
「いいか、妻を縛りつけるんじゃないぞ。たまには自由な時間を持たせてガス抜きしないと、爆発するぞ」
「おとうさま、それは恐ろしいです」
「うん、先輩の話を聞いたが、それはそれは大変だったそうだ」
こわばった顔の聡の話に、皆が恐ろしさに身を震わす。
「特に子育て中は、要注意だ」
聡の実感のこもった言葉に、男達は、こくこくとうなずくのだった。
夕方になり、ぞろぞろとみんなが帰ってきた。いつものように、にぎやかな夕食をとり、団らんを過ごし、三々五々部屋へと引き上げて行く。
お風呂をすまし、寝室に入ると、みさとは聡にぴとっとくっついた。
「ありがと」
「ん~?」
「お休み作ってくれて」
「どういたしまして」
クスクス笑いあう二人。結婚してもう100年以上になるのに、こういうところは変わらない。
今夜も熱い夜になるだろう。
おとうさまとおかあさまの1日は、こうして終わるのだった。
おかあさまは 命の洗濯 をした!
おとうさまは 夫の優しさ を使った!




