4.レンの狼狽
え~、ノリで書いていたら長くなりました。(当社比)
レンは、神の最初の聖獣である。元は子犬であったが、神より名をもらった現在、子牛ほどの大きさの体躯を持ち、水を歩き空を駆ける。白い体毛は光に当たると銀に透けた。森の動物達を統べ、人語を話す賢くも凛々しい神の僕。それが、レンであった。
そのレンの様子が、おかしい。
ぼ~っと、空を見つめてる。かと思えば、そわそわと落ちつきなく歩き回る。足を踏み外す。物にぶつかる。誰にも言わずにいなくなる。
「変だな…」
「変よねぇ」
神とその家族も首をひねった。とりあえず、小さな生き物が踏み潰されるといけないので、レンに近寄らないようにと通達する。念のため、火の鳥やユニコーンなど他の聖獣に見守りを頼むのも忘れない。
そんな状態が続いたある日、レンがクロウドとキンシャのもとにやって来た。ためらいがちに、口を開く。
「その…、双賢者のお二人に、お聞きしたいのだが…」
「ああ、なんだろうか?」
「うむ、あるもののことが、頭から離れんのだ。何をしていても、思い浮かぶと頭も体も働かなくなってしまう」
常に自信にあふれたレンが、うなだれてしまった。
「ずっと見ていたい?側にいたい?」
「おお!そうだ!さすが双賢者殿、よくわかるな!」
クロウドの答えに、レンが我が意を得たりと、バシバシと尾で地面を叩いた。
クロウドとキンシャが顔を見合わせる。ふたりとも微妙な顔だ。
「ねぇ、レン。それは私たちよりお父さまとお母さまの方が、いいわ」
「そうなのか?」
そうキンシャに言われてレンはきょとんと首をかしげた。こんなときでなければ、思わず抱きつきたいかわいさだ。キンシャは、レンにのびそうになる手に力を入れて我慢した。
「ああ、そうだ。お父さまとお母さまがふさわしい」
クロウドが笑いをこらえながら、レンにうなずくと、レンはそうか!と意気揚々とお父さまとお母さまのもとへと向かうのだった。
後には、レンがかわいい~と悶えるキンシャとしゃがみこんで腹を抱えて笑うクロウドが残されていた。
嬉しそうに一目散に、それこそ尻尾をふって、レンがお父さまとお母様のもとへとやってきた。
「お父さま!お母さま!」
「レン、どうした?」
ソファーに座る聡とみさとの間に入り込み、すりすりするので、2人も条件反射的にレンの身体をなでてしまった。レンは、ぐるると気持ち良さそうに喉をならし、目を細め、すっかり体をまかせてしまっている。
「まあ、レン。子どもの頃に戻っちゃったみたい」
みさとの笑い声に、はっと我に返り、レンはあわてて居住まいを正した。
「我を忘れてしまった、お恥ずかしい。実は、お聞きしたいことがあって。双賢者にお父さまとお母様に聞いたほうが良いと言われたので…」
人間ならば、頬を染めているであろう表情で、レンが切り出した。
一通り話を聴くと、聡とみさとは顔を見合わせた。若干ほほが引きつり気味だが、なんとか耐えている。
「え~と、それはだね、レン。恋、だと思うよ」
「こい…?」
「つまり、レンは番を見つけたってこと」
聡とみさとの言葉に、レンは衝撃を受けた。
「な、なんということだ!何百年も生きるうちに、番のことをすっかり失念していた!こうしてはいられない、早速迎えに行かねば!!」
言うが早いか、レンは飛び出していった。
「ちょ、レン!無理やり攫ってきちゃダメよ!」
「うわ、もういないよ」
慌てて追いかけるも、レンの足の速さにかなうわけもなく、玄関で立ち尽くす聡とみさと。
「父様、母様、どうしたの?レンガがすごい勢いで出て行ったけど」
「シン、いいところに」
話を聴いたシンはあんぐりと口を開けた。
「番?レンに?この間から変だったのは、そのせい?」
「そうらしい」
「それより、シン。レンを追わなきゃ。無理やり攫ってきちゃったりしたら、あとあと大変よ?」
それもそうだと、慌てて火の鳥ひーちゃんに乗って、みんなでレンの後を追うことに。
「うわー、レンすごい速さ…」
「おい、シン。レンが騒ぎを起こす前につかまえるぞ」
「そうだった、ひーちゃんスピードアップお願い」
ひーちゃんのスピードアップのおかげで、あっという間にシン達はとある城下町に降り立った。レンのもとへと急ぎ駆けつける。シンは、僕であるレンの居場所がわかるのだ。
普通サイズのレンは、求婚の真っ最中。お相手はと見ると、子犬をまとわりつかせた華奢な茶犬が見えた。
「あちゃー、人妻?しかも威嚇されてるし」
「あれ、何か違くないか」
よくよく見れば、レンがアピールしているのは、薄茶の子犬の方で、親犬がそれを邪魔しているのだった。
「まさかのろりこん…」
みさとが半眼でつぶやいた。
シンは、はぁとひとつ息をつくと、レン達に近づく。
「レン、ちょっと落ち着け。彼女はまだ幼いし親だって警戒してる」
シンは、そっと犬の親子に近づいた。シンの後ろでは、レンがそわそわと見つめてる。
「やあ、君の娘さんがぼくの僕の番なんだ。大人になるまで、ぼくが責任持って預かるから、一緒に連れていってもいいかな?」
神たるシンの言葉に、親犬はしばしためらった後、子犬をそっと前に出した。
「ありがとう」
シンは子犬をそっと抱き上げ、立ち上がった。レンは、ちぎれんばかりに尾を振り、後ろ足で立ち上がり、子犬に触れようとした。それをシンがいなし、子犬を妻のリンへとわたす。
「レン、大人になるまで、この子はリンと母さまに預けるよ」
レンがガーンという表情で、シンに足をかけたまま固まった。
「まあ、最低あと半年位かな」
追い討ちを駆ける聡の言葉にレンはたそがれた。
天真爛漫な彼女は、リンとみさとにピッタリとガードされ、レンはスキンシップを許されず涙を流す日々。レンの必死なアプローチは、晴れて番になるその日まで続いたのだった。
レンは白いシベリアンハスキーのイメージで!(情けないけど)彼女ちゃんは柴ですかね。




