3.神殿へGO
神の住まう不可侵の森に隣接する神殿。
世界中の神殿の大本であり、最も大きな神殿でもある。
20年に一度の大祭期間中である今は、神殿の中にいる人の数も常より多い。バーゲン会場かと言う人の波の中に、聡とみさともいた。
「すごい人ねぇ。なかなか進めないわ」
「そういえば、この神殿できて百年だって言ってたなぁ」
「あら、そんなになる?」
「ん~、この前セツが70になるって言ってたから、そんなもんだろ」
セツというのは、聡とみさとの末っ子で、神殿の巫女と恋に落ちて、神官になった男である。長らく神官長を努めていたが、先年引退した。ちなみに今の神官長は、娘婿である。
人の波に流されながら、神殿の中を進んでいくと、みさとは知った顔を見つけた。
「ミラちゃん!」
みさとが7、8歳の巫女姿の少女に声をかけた。少女は聡とみさとを認めると、パッと顔を輝かせる。
「おとうさま、おかあさま!」
パタパタと駆け寄る少女は、現神官長の末娘。つまりは聡とみさとのひ孫なのである。顔立ちは、二人によく似ていて、親子でも通りそうだ。
「久し振りだな。大きくなった」
みさとに抱きつき、聡に頭を撫でられた少女はうれしそうだ。
「ミラちゃん、お父さんとおじいちゃん、どこにいるか知ってる?」
「はい!こっちです」
少女に手をひかれ、聡とみさとは、人波から離れた。ミラはするりと脇道へ入る。
「いつ来ても、わからないわぁ」
「お前最初から覚える気無いだろ」
「うっ、お、女は地図に弱いのよ!」
「はいはい、じゃ離れんな」
「うぎゃあ、ミ、ミラちゃんの前でしょ~!」
腰に手をまわされ、聡に引き寄せられたみさとが騒ぎ、それを見たミラがクスクス笑った。
「おとうさまとおかあさまは、本当にラブラブですね~。お祖父様の言ってた通り」
「セツ、余計なことを…!」
セツには、自分たちについて、何を話したのか、キッチリ説明してもらおうとみさとは固く決心した。
聡は「事実だろ」と全然気にした様子はない。少しは恥じらいを持てといい続けて早百年。そろそろ諦めようかな~と、近頃弱気になっているみさとであった。
「こちらです。お祖父様、父様、いらっしゃいます?」
ミラに続いて、ひときわ立派な部屋へと入った。応接室と言った感じの部屋だ。
「どうした?ミラ」
奥のソファーに、白髪の老神官と壮年の男性神官が座っていた。2人とも、聡とみさとを見て目を丸くしている。
「久しぶりね、セツ」
「元気そうだな」
聡とみさとの言葉に、老神官セツは飛び上がり、2人に駆け寄った。
「おとうさま!おかあさま!」
小さな子どものように、キラキラした目で両親の手をとって喜んでいる。義父である前神官長のそんな姿に、現神官長は驚きながらもほほえましく、しばらく見守った。やがて、「義父上、落ち着かれましょうか。おとうさま、おかあさま、どうぞお座りください」と、皆をすわらせ、ミラにお茶の用意を言付けた。
「少し見てまわったが、町も神殿も盛況だな」
「はい。ありがたいことに。おとうさまとおかあさまにいらしていただき光栄です」
「まだ、町の中を回るから、俺達の正体はばらさないでくれ」
「はい」
という聡と神官長の会話の横では、セツがみさとに問い詰められていた。
「セツ、ミラちゃんに私達がラブラブだって言ったんですって?」
「え、まあ本当のことですし…」
「他には?変なこと言ってないでしょうね?」
「言ってません、言ってません!!」
セツはみさとにぶんぶんクビを振っている。部屋の隅に控えていたミラは、ぽかんと口を開けた。
前神官長であるセツは、誰よりも立派な尊敬される神官で、偉大な学者でもあった。そのセツがいたずらをした子どものように、おかあさまに怒られてるなんて。
ふと視線を感じたミラが振り向くと、おとうさまと目があう。おとうさまはにやっと笑った。
「みさと、もうその辺にしたら。セツだって悪気があったわけじゃないし。孫の前でしかるのは、どうかな?」
「いくつになっても、子供は子供なんです!」
「すみません」
セツがしょぼんと肩を下げている。
『おかあさまにかなうものはいない』
昔お祖父様にきいた言葉は、本当だったんだ。ミラは、目の前の光景に心の中で強くうなづいた。
おかあさまは 秘儀 母は強し を 使った!




