20.願ったものは
みさとは悩んでいた。シンが見かけ17,8歳くらいになった時から、ずっとだ。次にシンが成長するときは、成神するときだ。精霊王達は、すでに自分達と同年代になっている。
シンが成人したときに、願いを一つ叶えてもらえる。最初は、役目が終わったらさっさと元の世界に返してもらうつもりだった。
でも、シンの世界に絆が出来た。シンも精霊王達もレイもひ~ちゃんも、みんな家族だ。タマゴから育てたシンは、「神」である前に「息子」だった。
それにリンのこともある。
聡と二人、何度も話し合った。マニュアルも何回も調べた。でも、シンの世界で生まれたリンは、シンの世界に属するもの。一緒に連れてはいけない。
今日も、みさとはマニュアルを前にため息をついた。何度見ても、内容が変わるわけないのに。もしかしたら、とマニュアルを確認せずにはいられない。
リンが床に座って、自分を見ているのに気付き、抱き上げた。
きゅっとしがみつく、小さなぬくもり。シンと同じくみさとと聡のかけがえの無い子ども。
「手放せる訳ないのに」
リンをぎゅっと抱きしめる。みさとの中で、心が決まった。
おやつを作ろうと、リンの手を引きキッチンへと向かう。その顔は、いつになくすっきりとしていた。
聡は、考えていた。シンの成人が近づき、みさとが悩み始めた頃からずっとだ。
みさとが、元の世界とシンの世界で、ゆれ動いているのをわかりながら、何も言わなかった。みさとに、自分で決めて欲しかったからだ。
聡としては、このままシンの世界で、家族で暮らしたかったが、みさとが元の世界に戻るのなら、一緒に帰ろうと思っていた。
リンのことは気になるが、シンがいるし、精霊王達もついている。大丈夫だろう。
聡はみさとと離れるつもりは無い。記憶を封じても、みさととの縁は切れない自信がある。
もともと、新入社員として入ってきたときから気になっていた女性だった。みさとがもう少し会社に慣れたら、誘おうと思っていたのだ。
シンの世界に来たこととその後の出来事は、聡にとって幸運だったとしか言いようが無い。
今日もマニュアルを見てため息をつくみさとを見守っていると、リンがみさとを見つめているのに気付いた。リンも子どもながらに何か感じるものがあるのだろう。この頃聡やみさとをじっと見ていることが多い。
みさとは、リンを抱き上げるとぎゅっと抱きしめた。
「手放せる訳ないのに」
その言葉を聴いて、聡はみさとの決意を悟った。どうやら、聡の希望通りになりそうだ。リンとみさとを見守る聡の表情は、優しかった。
5日後、ついにシンは成神した。
「おめでとう」
「やっと、一人前だな」
「ありがとう、父様、母様。お二人のお陰で、無事に成神しました」
シンが、ほとんど歳の差のなくなった両親に頭をたれた。みさとの瞳は潤んでいる。
「ご存知だと思いますが、成神の暁には、願いを一つづつ叶えることになっています。お聞かせください」
シンが緊張の面持ちで、聡とみさとに申し出た。控える精霊王達も、こわばった顔で二人を見つめている。
聡とみさとは、一つうなずくと、聡が口火を切った。
「俺とみさとを、ずっとシンの両親でいさせてほしい。これが俺の願いだ」
「私の願いは、元の世界の私と聡の存在を消して欲しいっていうこと」
二人の願いを聞いて、シンの目がまん丸になった。
「ずっといてくれるの?」
「ああ」
「もちろん」
シンが、二人に飛びついた。笑った顔は、まるで5歳の子どもだ。
「うれしい!すっと、みんな一緒だ!!」
「シン様、まだ途中ですよ」
クロウドに注意されて、シンはあわてて居住まいを正す。
「え~っと、はい、お二人の願い、承りました!」
シンの答えに、皆が笑った。
シンの世界は、今日も平和です。
《シン》
ようやく成神です。こちらに残ってくれた両親には、頭が下がります。2人のためにも、この世界をいい世界にするように、がんばります!




