2.名前をつけましょう
タマゴの前にいつの間にか現われた本を手にする。表紙に「育神マニュアル これであなたも立派なお父さんお母さん☆」と書いてある。百科事典くらいの大きさの立派な本だ。
「…読むぞ、いいか?」
「はい」
聡は震える手で、本を開いた。
話は、「神様育ててね!」な紙を読んだ後にさかのぼる。
二人は、その事実を拒否した。
ドッキリかもと隠されたカメラを探したり、夢に違いないから寝てしまえば元に戻るはずと、寝てみたり。
でも、カメラはどこにもなかったし、起きても神様のタマゴはそこにあった。
ついに二人はこれが現実だと言うことを認めた。認めて、その事実に打ちのめされたのだ。落ち込んで、体育すわりでいじいじと愚痴ること半日。
ようやく、二人は自分の気持ちと折り合いをつけて、前に進むことにした。神様の両親という役割を受け入れたのである。
その瞬間、タマゴの前にマニュアルが現われた。
「『はじめに。 このマニュアルは、育神初心者のあなた達のためのマニュアルです。』って、当たり前のことしか書いてないな」
「とばして、次いこう」
聡もみさとも、社会人としてのしゃべり方、先輩後輩の人間関係は、衝撃の事実により、きれーさっぱり、吹っ飛んでいるが、本人達は、気がついていない。
「『1、名前をつけましょう。 名前をつけることにより、神様のタマゴと両親の絆が強まります。神様は、両親の愛情により、育つのです。』だってさ」
「名前かぁ~。いとこのお姉ちゃんが生むときに、本10冊くらい並べて、大騒ぎしてたよ」
「画数とか、色々あんだろ?どうする?」
「う~ん、そんな本ないし、大体神様の名前、漢字でいいの?」
「それもそうだな。じゃ、音でいくか」
二人で、あーでもないこーでもないと候補をひねり出し、結局「シン」と言う名に決まる。
「新世界の神様だからシン。どう?」
「いいな。他にも、心、真、神、信なんて意味にもとれるし」
「じゃあ、決まり!今日からきみはシンだよ」
「よろしくな、シン」
二人がにっこりとそう告げると、タマゴはぱぁっと光った。
まぶしさに一瞬目をつぶる。次に目を開けると、タマゴは前と同じようにくるくる回っていた。だが、なにか違和感がある。
「なんか、変…!おい、部屋が広くなってるぞ!」
「隣に部屋が出来てる…!」
顔を見合わせると、マニュアル本へと取って返した。
「『神様が成長すると、この世界も成長します。最初の部屋は、最終的に、大神殿になります。がんばって、神様を育ててください。』 これかっ。なんだよ、育成ゲームかよ」
くるくると嬉しそうに回るタマゴを見る。肩から力が抜けた。
「先は長そうだけど、なんか、楽しそうだね」
「ま、悩むより楽しんだほうがいいだろ」
「うん、これからよろしくね、お父さん」
にやっと笑ったみさとに、聡も笑い返す。
「おまえもな、お母さん!」
タマゴがうれしそうに、ぴょんと飛び跳ねた。
《神様のタマゴ改めシン》
うれしい!名前がついた!!