18.シンのお散歩
シンは散歩が好きだ。ようやっと歩けるようになった頃から、散歩に行きたがり、聡やみさとにねだった。
最初は家の周りだけだった散歩は、シンの成長と共に森の中、森の外へとその場所を広げた。
今では、一人でふらっと出かけるので、精霊王たちの誰かがついていくのが、暗黙の了解だった。
「散歩、いってくる~」
「遅くなるなら、連絡するのよ~」
母様は、心配性だと、シンは思っている。シンが神様だってこと忘れてるんじゃないかとも。リンが連れて行って欲しそうに見ているが、今日は遠出するから、また今度と、シンはリンの横をすり抜けた。
「無茶するなよ」
父様は、基本見守ってくれる。信頼されているようで、シンはうれしかった。
家を出て、すっと空へ浮かぶ。森の木々の上、鳥達の領域に達すると、今日の目的地へと向かってシンは風をきった。後方には、クロウドとキンシャの気配がある。
しばらくすると、眼下に村が見えてきた。少しスピードを落として、村を観察する。順調に発展しているようだ。人口も畑の面積も増えている。
村の発展に気をよくして微笑むと、シンに気付いた村人が、祈りを捧げている。シンは、手を一振りすると、先へと進んだ。
途中、狼の群れのいさかいを収めたり、果実を収穫している親子からおすそ分けをもらったりしながら、目的地へと進んでいく。クロウドとキンシャはそれを、黙って見守っていた。
(今頃、みんなでおやつ食べながらテレビで僕たちを見ているんだろうな)
シンは、空中散歩を楽しみながら、家にいる家族に思いを馳せる。シンが成神したら、聡とみさとは何を望むのだろうか。ずっと一緒にいて欲しいけれど、それを口に出してはいけないと思うくらい、シンは成長していた。
二人が何を望んだにしても、それを叶えてあげようと、シンは決心していた。
いくつかの森を越え、草原を渡り、シンは目的の火の山へとやってきた。中腹に口を開けた洞窟へと迷いなく、入っていく。すぐさまキンシャが光の球を出したので、洞窟の中は歩くのに暗いことは無い。
ぱたぱたと、急ぎ足ですすむと、開けた場所にでた。端にうずくまっていた火の鳥が、シンに気付いた。
『シン様!お待ちしていました』
「タマゴは?」
『今朝がたより、ヒビが入っております。もう、まもなくかと』
そういって、火の鳥が片翼をあげると、ヒビの入ったタマゴが見えた。
「わ~、楽しみ!」
タマゴの前にしゃがみこんで見つめるシンのために、クロウドとキンシャが動き始めた。クッションが用意され、飲み物も差し出される。
わくわくしながら待っていると、ついにタマゴが割れ、中から火の鳥の雛が出てきた。シンを見て嬉しそうにぴぃ~と鳴いている。
「うわ~、かわいい。おいで?」
雛がヨチヨチとシンの手の中へ歩いていく。火の鳥が目を細めて見つめていた。
『お連れになりますか?』
「いいの!?」
火の鳥の申し出に、シンの顔がぱあっと、明るくなった。
『はい。大きくなりましたら、シン様の森の近くの火の山を住処とすればよいでしょう。私は時々寄らせていただければ』
「もちろん!じゃあ、お前に名前つけようね。ん~と、女の子だから、ヒルダでひ~ちゃん!」
『ありがとうございます。シン様にお名前をいただけて、光栄です』
「うん、じゃあ、そろそろ行くね」
『お気をつけて』
火の鳥に別れをつげて、洞窟を出ると、今から帰ると連絡をいれた。クロウドの力で、直接テレビとつないでいる。
「母様、火の鳥の赤ちゃん連れて帰るね!」
「あらあら、また拾っちゃったの」
みさとは、しょうがないわねえと言いながら、嬉しそうだ。横の聡とリン、後ろの精霊王達も笑っている。
こうして、シンのお散歩のたびに、みんなの家には住人が増えていくのであった。
《シン》
ひ~ちゃん、かわいいんだよ~。