17.神の御座所
御座所=高貴な人の居室のこと
温泉騒動から、しばらく経った日のこと。
リビングでくつろいでいたミドゥーリが、急に立ち上がった。そのまま、テレビのリモコンを操作し始める。やがて、これだ、と一つの画面を拡大した。
森の端で、一人の壮年の男が、様子を伺っている。道もないので、戸惑っているようだ。
「へ~、ついに森にまで人間が到達したんだ」
「シン様、どうなさいますか?」
「ん、導いてあげて」
シンの言葉に、精霊王達がうなづくと、男の前に道が現われた。男は、一瞬驚愕したが、ややあって覚悟を決めたらしく、森へと一歩を踏み出した。
男の様子を見ながら、小一時間。精霊王達が、動物が近寄らないようにしているので、男は着々と家へと近づいてきていた。現在、家は、豪邸のように大きくなっている。その家が目に入ったのであろう。男は、感銘を受けたように、立ち止まった。
それを受けて、シンが玄関へと動いた。もちろん、皆も付いて行く。
シンが扉を開けると、男がうろたえ、あわててひざまづいた。
「いらっしゃい」
「は、初めてお目にかかります。セイと申します。あの、ここは…神のお住まいでよろしいでしょうか?」
「うん、そうだよ。僕がシン。君の言うところの神」
にっこり笑うシンに、セイは、あっけにとられている。
「シン、玄関先で立ち話もないだろう。リビングへ行こう」
「そうだね、父様。ついてきて」
シンと聡がさっさと歩き始めたので、セイは、あわてて後を追う。足を進めながら、周りを観察した。
父様と言うからには、あの青年は神の父なのだろう。ちょっと、歳が近すぎる気もするが、人間とは違うのかもしれない。幼児を抱いた女性は、神と少し似ていた。親族であろうか?その他の6人は、どう見ても人間ではなさそうだ。いずれ神に近い存在であろう。
そんなことを考えていると、リビングに通された。
リビングは、セイの理解の範疇を超えていた。大きな鏡には、動く絵が映っているし、椅子は、雲のようにふわふわ。金色の髪の美女が出してくれたほろ苦い飲み物は、初めて飲むものだった。
カルチャーショックを受けて固まっているセイに、シンが声を掛ける。
「ようこそ、僕の家へ。君は初めてのお客様なんだよ」
ニコニコ顔のシンに、セイが頭をさげた。
「は、ありがとうございます。で、あの皆様方は――」
「あ、紹介しなきゃね。僕の両親と妹。で、後ろに控えているのが、精霊王達だよ」
「お目にかかれて光栄でございます。それにしても驚きました。神は4柱もいらっしゃたのですか」
「いや、少し違うな、神はシン一人だ。僕と妻と娘はシンの家族であるだけのこと」
「父様と母様は、父様と母様なんだよ」
聡とシンの答えに、今一クビをひねりながらも、セイは受け入れた。
「で、今日はセイは何できたの?ここまで、結構大変だったでしょ」
「はい、これまで、神のお姿を見たものが何人かおります。お声を聞いたものも、いくたりか。そのなかに、神のお住まいになられる地のことを聞いたものがおりました」
「うん、僕話したね~」
「そこで、私ども人間が神にお仕えすることをお願いに参ったのでございます」
セイが、がばっとひれ伏した。
聡とみさとが、セイからシンへと視線を移す。シンはわかってるというようににこっと笑った。
「いいよ。でも、ここは僕の家だから、ちょこちょこ来られると困るんだ。だから、君達が住んでる村とか町にちっちゃな家作ってよ。そしたらここにいても、つながるから」
「はいっ!喜んで!!」
セイは、涙を流さんばかりに喜んでいる。聡とみさとは、どこの居酒屋だよと心の中で突っ込みながらも、表面上は穏やかにシンにうなづいた。
こうして、森は神の聖域、不可侵の森となり、みんなの家は神の御座所と 崇め奉られることとなったのだった。
《シン》
どうです?神らしかったですか?
次は、もっと威厳あるようにしようかな。