水槽アーチにて
掲載日:2026/11/04
薫風が肌を突き刺す。
まるで陽炎のようだ。
境界が歪に絡み合う水面を見上げるヒトビトは、鰓を優雅に翻す彼らの鉛色の目にどう映るだろうか。
狭く薄ら日の蒼に、色とりどりの種を放り込んだ空間。雑踏の中を駆け巡り、止まり、動き出す。その営みは、一体何の価値を見いだせるのか。
考える。
光を抱え天に上る泡は、夜空に散りばめた星達の様にも視えた。
淡く煌めく星屑の底でヒトは、ただの肉塊としてしか佇めない。
幾重もの硝子を重ねて隔たれた蒼の先は、重力から脱却した無垢な死のほとりだ。
生そのものを象徴する石像の残穢。
彼らはただ、生きるために鰓を動かす。価値などという実態のない言葉を、その蒼が孕むことなどけしてない。
だからこそ、その価値という言葉に魅惑を感じる肉塊と交わることはないのだ。
彼らを見上げる私の瞳は、より黒く、深淵に近づいていく。




