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金貨に執着する聖女の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/10/26

「聖女様、治して下さい。お金はありませんが・・・この手形で」

「決済は?」

「三ヶ月後になります」

「なら、三ヶ月後に来て下さいませ」


「こ、このケチ!」


 患者(きゃく)は捨て台詞を吐いて退散をした。

 私は聖女サトコ、他人(ひと)は強欲聖女と呼ぶ。


 でも言い分はある。治ったら金貨1枚・・・これでも破格だ。欠損回復魔法でも風邪でも平等だわ。



「おい、聖女サトコ!傷を治しやがれ!ナニがただれてよぉ~、俺様のデカいのを拝ませてやるぜ」


「治ったら金貨1枚ですわ」

「おうよ」


 治したが・・・


「金貨1枚頂きますわ」

「おう、治ったナニで天国に行かせてやるぜ!」


 時々、こんな輩がいる。


「では、元の状態に戻しますわ」


 記憶を探る。この男の治療前の状態をイメージして聖魔法を放つと・・・


「う・・・うわわわわわわわーーーー!」


 腐病が更に進行したようね。


「金は払うから」

「金貨二枚先払いですわ」

「ねえよ!」



 こんな輩が多い。

 人魔大戦が終わり。ガラの悪い元傭兵、兵士が街に充満しているわ。


 このイメージする術はお母様から学んだわ。聖女だった。


 私のお母様はニホンアという世界から来たらしい。

 大戦中、王国はニホンアから召喚をしまくった。

 その1人がお母様だった。


 お母様は働いた。

 前線で傷ついた兵士を・・・・それも夜も寝ずに治療したわ。


 しかし、対価は王子と結婚・・・

 無報酬だった。


 慣れない食べ物と環境で体を壊してしまった。



 ☆☆☆回想


『おい、サトミ、患者が列を成しているぞ!』

『殿下、昨晩から調子が悪くて・・・』

『聖女のくせに体調管理も出来ないのか?我の名声が落ちるではないか?母上も期待外れと言っているぞ』



 いつも怒られている母を見て育った。


 中には・・・


『聖女サトミ様が治してくれるというから指を切ったのだ!休むとは何事か?』


 母を当てにして自傷する者まで現われた。ここでは指を斬ると大工ギルドから一時金が出るらしい。不正行為だわ。




 ・・・・・・


 街を歩いていたら、父と出くわした。


「おい、サトコ、特別に王宮に戻ることを許す」

「あら、殿下」

「父と呼ぶことを許可する」


「治ったら金貨1枚ですわ」

「まあ、良い。跡取りが病気だ。来るが良い」

「はい、伺いますわ」



 私は王宮に行く。

 そこには腹違いの兄弟姉妹が大勢いた。

 私の母は第二夫人だったようだ。

 私よりも年長者がいる。


「ただの栄養の偏りでしたわ。治りました。金貨1枚頂きますわ」

「おう、受け取れ。現金だったな」


 チャリンと床に放る。

 金は金だ。私は受け取った。



「でだ。このまま屋敷にいろ。ここで治療院を開くことを許す。貴族限定だ」

「いやですわ」



「なら、力尽くだ!」


 ドアが乱暴に開き。網や拘束具を持っている騎士達が現われた。


「あら・・・どうしてもというのなら殺しますわ」


「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」

「戯言を」


 私はイメージする・・・



 ☆☆☆


『いい。サトコ、日本にはレーザーという物があって、患部を切り取ったりするのよ』

『お母様はニホンアでも聖女様だったの?』

『違うわ。看護師よ。手術の補助をしたこともあるの・・・あら、でも、『日本では』が、ニホンアに訛っちゃったわね。まあ、いいわ』



 ・・・・・・・・



「「「ギャアアアーーーーーーー」」」

「目が、目が」


 指から聖魔法を高密度に放ち。彼らの目を潰し。体に穴を開けた。



「ヒィ、サトコ・・・何ていうことをするのだ」

「あら、殿下、まだやりますか?」


 腰を抜かしている。床は濡れているわ。


「では、失礼します」


「化け物・・・だ」

「なら、殿下は化け物の父ですわ」



 化け物?そんな言葉はもう慣れたわ。



 こんな私だから敵が多い。泊る場所は高級宿屋を転々としている。

 道も変えて、いつも通る道を作らないようにしているが・・・・

 跡をつけている気配を感じる。

 王宮のカゲ・・・にしては素人だ。


 丸分かりではないか?

 どうせ、貧民が治療して欲しいと跡をつけているのだろう。


 と思ったらその通りだった。貧相な男、二十代半ばかしら。

 路地に入り対峙した。



「貴方は患者(きゃく)かしら?」

「そうです!息子と妻を治して頂きたい!」


「なら、金貨二枚になります」

「ない!しかし、必ず払う!」


「なら、お消え下さいな」

「頼む!」


 この男は小娘である私を威嚇することもなく責めるまでもなく。

 ただ、土下座をした。



「何ならこの命を差し上げる!」


 命か・・・どうせ戯言だろう。しかし、解剖をしてみたかった。

 母が亡くなり王宮を放り出されてからは道ばたの死体で人体の構造を観察したわね。

 しかし、動く内臓は直に見た事はない。


「面白いことを仰るのね。なら、対価は生きたまま解体ですわ」


 男は一瞬悲痛な顔をしたが・・・


「それで良い。とにかく診て下さい!」



 貧民街に行った。あばら屋だ。


 奥様と舅らしき老人がいた。


「おおお、聖女様が来て下さった!でかしたぞ!アルベルト!」

「義父上、何とかお連れしました」


 品性卑しからぬ家族だ。

 剣がおいてある。


「さあ、お湯ですが・・・どうぞ!」

 お茶がない。


「で、診させて頂きます」


 奥様は結核、お子様は風病、それも命に関わるレベルだわ。

 吐血の跡がある。


「シーティ、スキャン!」


 透視だ。これもお母様からならった。

 患部に手かざしで聖魔法を当てる。これでも丁寧な治療だ。


「後は栄養ですわ。もう、こんなの食べておりますの?」

「ええ・・・肉を奮発して」


「馬鹿ですか?安いので良いから野菜と麦を買って来なさい」


 聞けば貴族の出で、この大戦で没落をした。日雇いで生計を立てているそうだ。

 伯爵家一家だったからせめて娘と孫には良い物を食べさせようとしたらしい。


「さあ、野菜スープと麦粥です。水物ですが今はこれをお食べなさいませ」

「「はい!」」


 一晩つきっきりで看病したら治った。

「聖女様、有難うございます」

「聖女様・・・ありがとう」


「おお、マルガリッタよ。リヒターも元気になってワシは嬉しいぞ」


 さて、報酬の話だわ。舅が切り出した。


「聖女様にお渡しするお金ですが・・・」

「義父上!聖女様には私がお仕事を手伝うことになっております」

「そうか、アルベルト、しっかりお仕えするのだぞ!」


 アルベルトが遮って嘘を言った。まあ、いいわ。


 私はアルベルトの前を歩き。解体できそうな人目のない草原まで行く。


 まあ、どうせ逃げ出すのだろう。


 草原についた。後ろを振り向く。

 男はいなかった。


「やっぱりね。慌てて引っ越しという感じかしら」


 これでこの世は信用できないと再認識出来た。


 さあ、今日の宿はどこにしようかしら。



【聖女様!申訳ございません。靴紐が切れて・・】


 男はいた・・・・草原から急に現われたと思ったが、かがんでいたようだ。


「あ、ここですか?この岩場に寝れば聖女様が解体しそうですね」


 男は自らまな板に仰向けで寝た。


 手がプルプル震えている。


「何故かしら?」

「約束でしょう・・・」


 口も震えている。


「だから、何故、約束を守るのかしら。逃げる機会は沢山あったわ」


「それは・・・私にも分かりません」



 ☆☆☆回想


 母の言葉と重なったわ。



『ゴホ、ゴホ』

『お母様!何故、治療するの?お母様も体悪いのに・・・』

『それは私にも分からないわ。強いて言えば・・・』


『本当に助けるべき方が中にはいるからよ』



 ・・・・・・・・・



 指からレーザーを出す。


 男は目を瞑ったわ。





「あら、残念、今日はお母様の命日でしたわ。無益な殺生はしないことにしておりますの」


「えっ」


「金貨二枚、お支払い下さいな。月々少しでも良いからお支払いして下さればいいわ」


「聖女様・・・・」


 男はうなだれて深く頭を下げた。

 私が草原を去るまでずっとその姿だったわ。



 そうだわ。馴染みの患者の家に行こう。



 令嬢を治療した事のある伯爵家の門を叩く。

 すぐに応接室に通された。



「サトコ様、ようこそ来て下さいました。今日はどのような御用で?」

「ザイル伯爵、この家には爺やはおりませんね」


「はい、何を仰っているのですか?」

「ゴホン、新興の家門で代々の使用人がいない」

「まあ、そうですが・・」


「私が身許保証人になるから、爺やと従者雇ってみませんか?」

「信用できるのですか?」


「ええ、命をかけて約束を守ろうとする男を知っています。その義父も人品卑しからず」

「聖女様がそう言うのなら・・・」


 まあ、取りはぐれても嫌だからね。

 これは決して優しさではない。


最後までお読み頂き有難うございました。

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