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七夕に還る

作者: ひとひら
掲載日:2026/07/07


 七夕の夜だけ現れる、「白い少年」を知っている?


名前を呼ばれて返事をした人は、一年以内に死ぬ。


翌年の七夕、神社の裏山で見つかる――。


そんな怪談が、この町には昔から伝わっていた。


だから祭りの日、神社の裏へ近づく人はいない。


遠くで花火が鳴る。


その音に紛れるように、鈴がひとつ鳴った。



「……今年も会えたね」



白い少年へ駆け寄ったのは、一人の少女だけだった。



「待ってたよ、蒼」



周囲がざわめく。



終わった。

あの子は連れていかれる。



誰もがそう思い、息を止めた。



少年はしばらく少女を見つめ、小さく微笑んだ。



「僕は誰も連れていけないよ」



透けた指先が夜風に揺れる。



「連れていかれたのは……僕のほうだから」




十五歳の夏。


僕は病室で、七夕を迎える前に息を引き取った。


結衣と見るはずだった花火も、夏祭りも、「来年も一緒に来よう」という約束も果たせなかった。


神様がくれた奇跡は、たった一つ。


七夕の夜だけ、結衣に会えること。


それから毎年、僕はこの神社へ帰ってきた。


僕の姿が見えるのは結衣だけ。


ほかの人には、得体の知れない「白い少年」にしか見えない。


「ねぇ」


結衣が空を見上げる。


「今日は花火、きれいだね」


その横顔は笑っているのに、瞳だけが少し赤かった。


僕はその理由を知っていた。



今年で終わる。


そんなこと、神様に教えられなくても。



「……最後なんだ」



そう言うと、結衣は静かにうなずいた。


そして、一枚の短冊を差し出す。


『ありがとう。また生きてね。今度は私の思い出の中で。』


胸の奥で、何かがほどけた。



ああ。


僕はもう、結衣の中で生きていける。



ドン――。


夜空いっぱいに花火が咲いた。


あの日、一緒に見るはずだった花火。


光に包まれながら、僕の輪郭は少しずつ夜空へ溶けていく。


「来年は、もう来なくていいから」


結衣は涙をぬぐい、笑った。


「私はちゃんと幸せになる」


その笑顔を見た瞬間、ようやくわかった。


この町に残っていたのは未練じゃない。


君の笑顔を、もう一度見るためだったんだ。



「……さようなら、結衣」



風が吹く。


笹の葉がさらさらと揺れた。




翌年の七夕。


神社から「白い少年」の噂は、いつしか消えていた。


それでも結衣は毎年、同じ場所へ短冊を結ぶ。



『ありがとう。』



風が吹く。


どこからか、小さな鈴の音が聞こえた気がした。


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