第056話 どうしても気になってしまう子
俺達は3人で仲良く話しながら歩いていき、ゲルド商会の支店にやってきた。
支店はそこまで大きくはなく、普通のコンビニくらいのサイズだった。
ただ、他の建物よりもちょっと綺麗だ。
ここかーっと思いながら店の外観を眺めていると、フィリアが店内に入っていったので、俺とヘイゼルも続く。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
フィリアが店内に入り、挨拶をすると、カウンターにいた店員のおじさんが出迎えてくれた。
「あのー、ゲルドさんは?」
フィリアが店内を見渡しながら聞く。
「少々お待ちください。呼んで参ります……会長ー! フィリアさんがいらっしゃいましたよー!」
店員のおじさんは大きな声でゲルドを呼びながら奥にいく。
ちょっとすると、奥からガタイの良いおっさんが出てきた。
久しぶりに見たが、ゲルドだ。
「おー! これはこれは! あれ? リヒトの旦那? もしかして、家を借りたいって旦那か?」
ゲルドはフィリアを出迎えにきたが、すぐに俺を見つけ、声をかけてきた。
「久しぶりー。借りるのはこっちの子。俺はお前の茶を飲みについてきただけ」
「ああ、なるほど。じゃあ、ここではなんだから奥に行こうか。こっちだ」
俺達はゲルドに案内されて、奥に通される。
奥は仕事部屋になっているようだった。
ただ、部屋の真ん中にはテーブルと椅子もあり、応接室も兼ねているっぽい。
「狭くてすみませんね。旦那、お茶でいいか? 酒も出せるけど……」
「酒」
「私も」
「じゃあ、私も」
ゲルドが酒を提案すると、俺達はほぼ即答した。
ゲルドはそんな俺達に苦笑いを浮かべると、奥に行き、酒を持ってくる。
「お前、いつまでここにいるんだ?」
ゲルドから酒を受け取ると、疑問に思っていたことを聞いてみる。
「いや、俺もすぐに帰るつもりだったよ。ただ、旦那に占ってもらってからにしようかと思って、内容を考えてた。そしたら砂糖の話が舞い降りてきたからなー。帰るに帰れなくなった」
「あー、なるほど。お前も砂糖を買うん?」
「俺はエスタの商人だからな。エスタは砂糖がまったく採れないんでここ以上に需要が大きいんだわ。この商機を逃す奴は商人失格だぜ」
エスタで売った方が高価だったか……
でも、来た道を引き返すのもちょっとな。
「買えそうか?」
「その話はやめてくれ。売ってる当人がいるんで……」
ゲルドはまたもや苦笑いを浮かべながらフィリアを見た。
「お前、高値で売るのは良いが、恨まれるようなことをするなよ」
平然としているフィリアに釘を刺す。
「してないよ。真っ当な交渉だよ」
フィリアが可愛い顔で首を振った。
「心配だわー」
「いや、修道女が恨まれることはないけどな。教会を敵に回すと、こっちがつぶされるし。あとフィリアのおじいさんがね……」
怖いよねー。
「ならいいけど……」
「旦那ー。他に売るもんないか?」
「あ、ゲルドさん、私を通してください!」
フィリアが俺の前に腕を伸ばし、話を遮る。
マネージャーかな?
「旦那、良い女を捕まえたな?」
捕まったのは誰かな?
「どうかねー? まあいいや。占いは? 決めたか?」
「うーん、金貨10枚だもんなー。決まったら言う」
「わかった」
エスタに帰らなくていいのかね?
「あ、ゲルドさん、それで借家のことなんですけど」
フィリアが本題に入った。
「あー、それね。今から見に行くか? すぐ近くだし」
「近く? 住居区じゃないんですか?」
この町は北が商業区、西が冒険者ギルドや宿屋、飲食店であり、南と東が住居区だ。
今いるゲルド商会支店は当然、商業区だから借りる家は商業区にあることになる。
「倉庫代わりにしようかと思って買ったんだが、こっちではそこまで店を大きくできなかった。だから今は空家。借りてくれるとありがたい」
「なるほどー。じゃあ、見にいこっかー」
ゲルドの説明を聞いたフィリアがヘイゼルに尋ねる。
「そうね」
ヘイゼルも商業区で問題ないっぽいな。
「よーし、俺が風水的に大丈夫かちゃんと見てやるからな。あと、除霊がいるかとか」
「旦那って多才だなー」
すごいだろ?
家を見にいくためにゲルドの店を出た俺達は歩いて借家に向かう。
借家は歩いて1分程度で着き、本当にすぐそこだった。
「ここ?」
「ですね」
ヘイゼルが借家を見上げる。
ここは商業区のため、この辺りで建っている建物はそこそこ大きいが、ここは普通の家っぽい。
俺達はゲルドの案内のもと、家に入っていく。
「部屋は3つ。リビングと個室が2つだな。ただ、注意してほしいのは倉庫代わりなんでキッチンがない」
キッチンがない家って斬新だな。
「それは大丈夫。私、料理なんてしたことないし、するつもりもない」
ヘイゼルは貴族だもんなー。
絶対に料理ができなさそう。
俺達は部屋の感じを見ていくが、そこまで悪くないように見える。
ヘイゼルの宿屋の様子から考えてもスペースも十分にあるように感じた。
風水的にも悪くないし、地縛霊的なものもいない。
「俺は悪くないと思うぞ。ちょっとギルドから遠いくらいかな?」
「そうねー。私も悪くはないと思う。ギルドから遠い……まあ、それくらいならね。それでも東の方の住居区よりは近いし」
ちゃんと迎えに行くからなー。
「ここっていくらです?」
フィリアが目を光らせて、家賃を聞く。
銭ゲバ守銭奴の本領発揮だ。
「金貨15枚でいいよ」
「いや、10枚でしょう」
商人と守銭奴修道女の争いが始まった。
「さすがに10枚は……いや、まあ、いいか」
争いは速攻で終わった。
争いすら起きなかった。
「もうちょっと粘んねーの?」
「俺は不動産がメインでないし、他に借りる人もいねーしなー。できたら買い取ってほしいくらいだよ 買わないか?」
「買取の場合はいくらなん?」
「うーん、金貨1000枚でいいかなー」
1千万円か……
相場がわからんが、10年くらい借りるならば、買った方がいいって感じかな?
まあ、この世界にローンがあるかは微妙だから一括で金貨1000枚は厳しいけど。
「ヘイゼル、どうする? 金貨10枚だとさ」
「うーん、日に金貨1枚と銀貨6枚だからご飯代を入れてもこっちの方が安いか……」
元が高いからね。
「だと思うぞ」
「そういえば、あんたはどうすんの? 宿屋暮らしじゃん」
「考え中。当分はあそこかな」
まだ来たばっかで収入がどうなのかわからんし、結局はあっちの世界で過ごすからなー。
「借りようかな……いつから住めるのかしら?」
ヘイゼルは貴族らしく、胸の下で腕を組み、高慢ちきなしゃべり方でゲルドに聞く。
「……すぐにでも住める状態ですので、いつでも結構でございます。料金の方は店の者に渡して頂ければ……」
あ、ゲルドの対応が変わった!
ヘイゼルが貴族って、わかったんだな。
「そう? じゃあ、そうしようかしら?」
ヘイゼルちゃん、君って本当に隠し事ができないよね。
俺がしっかりしないとダメだな、こりゃ。
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