第018話 ちょっとドキドキ
商人ギルドを出ると、ポケットからスマホを取り出し、時間を見た。
12時前か……我が家に帰れるまでの時間はあと2時間くらいってとこだな。
昼飯をどうしようかと悩んだが、家で食べた方がいいと思い、宿屋に戻ることにした。
今回、色々と物を持ってきたが、必要だった物と必要でなかった物があった。
「うーん……」
今後も黄金草を採取するならスコップがいるな。
それに武器というか自衛手段を考えないと……
あれこれ考えながら歩いていると、宿屋に到着した。
宿屋に入ると、受付にはサラではなく、茶髪のおばさんが座っていた。
サラに雰囲気が似ているし、多分、サラの母親だろう。
「こんにちはー」
おばさんに声をかける。
「はい、こんにちは。お客さんかい?」
「ええ。宿泊しているリヒトです」
「ああ、甘いものをくれるお兄ちゃんね」
どうやらサラから聞いているようだ。
これが日本だったら事案ものだろうなー。
「明日で終わるんで、更新をお願いします」
「あいよ。いつまで?」
どうしようかな。
うーん、当分はこの宿屋でいい気がする。
サラが可愛いし、肉料理は美味かった。
「10日ほどお願いします」
「了解。素泊まりかい?」
「ええ。それで」
「じゃあ、金貨で3枚だ」
長期泊まりの割引はないのか……
「ではこれを」
財布から金貨3枚を取り出し、渡す。
「あたしにはチップはなしかい?」
チップも聞いてたか…………
「既婚者の好感度を上げてもねー」
「サラはあげないよ? あの子はまだ12歳だし」
思ったより幼かった。
この世界の人間は発育がいいんだな。
「冗談ですよ。素敵なレディであるあなたにはこれを」
カバンからチョコバーを取り出し、封を開け、渡す。
「何だい、これ? えらい黒いけど……焦げてる?」
おばさんは色んな方向からチョコバーを見る。
「食べ物……甘味ですよ」
「ふーん……あむ、もぐもぐ」
おばさんはこんな怪しいものを無警戒で口にし、食べ始める。
この世界の人間は警戒心がやたら低いな…………
詐欺行為するにはうってつけだが、その分、暴力のハードルも低そうだ。
おばさんはもぐもぐと食べ、目を見開くと、無言でがっつき始めた。
そして、あっという間に食べ終える。
「……あんた、変なものを持ってるね?」
食べ終えたおばさんがいぶかしげな目で見てくる。
だが、先ほどと比べ、表情は柔らかく、間違いなく、好感度は上がっただろう。
「まあねー。それよか、お礼におばさんの名前を教えてよ」
「あたしは旦那を捨てないよ? リリーだ」
かわいらしい名前だね。
「リリー、俺はこれから部屋で寝る。多分、1日中、寝てるから起こさないでね。あと、これをサラに」
俺は飴を1つ取り出し、リリーの手のひらに置いた。
だが、リリーは手のひらを広げたままで動かない。
「これは失礼」
リリーの分もいるなと思い、飴をもう1つ置いた。
すると、リリーはニコッと笑い、飴をしまう。
「寝るのはいいんだけど、あんたに客が来てるよ」
……はよ言え。
「客? 誰だ?」
「教会のフィリアちゃんだね」
フィリアか……
砂糖の件かな?
「どこにいる?」
「あんたの部屋で待ってる」
まだ昼間だというのに待ってるのか……
俺が夕方に帰ってくるとしたらだいぶ待つことになるぞ。
「……暇なのかね?」
「昨日、夜遅くまで起きてたらしく、寝て待ってるってさ」
なるほど。
しかし、勝手に客の部屋に入れるとはね。
まあ、たいした荷物はないし、警戒心が低いこの世界では変なことではないのだろう。
ましてや、フィリアは女性で教会の人間だ。
信頼度がダンチだろう。
「わかった。上がってみる」
「変なことすんなよー。ウチはそういう宿じゃないからね」
逆に言うと、そういう宿もあるのか……
「俺は女性には優しいんだ」
「そういうことを言う奴が一番危ない。ましてや、うちの子に餌付けしてる奴は特にね」
あんたにも餌付けしたしね。
「フィリアの悲鳴が聞こえたら助けてあげるといい」
「その場合の犯人はあんただろ」
そうなりますな。
リリーに手を振り、階段を上がった。
そして、奥の自分の部屋の前まで来ると、ノックをするか悩んだ。
占いによると、ラッキースケベは……ない、か。
ノックをし、ドアを開ける。
鍵はかかっておらず、本当に無警戒だなと少し心配になった。
部屋に入ると、フィリアがベッドでスヤスヤと寝ているのが見える。
だが、ベッドで寝ているフィリアの横には蛇がとぐろを巻いてこちらを見ていた。
ちゃーんと用心棒がいるのね……
フィリアというか、蛇に近づく。
「安心しろ。お前の主人に害をなす気はない」
そう言って蛇に手をかざすと、蛇は警戒を解き、ご主人様と同じく、スヤスヤと寝だした。
守護霊も警戒心が低い……
苦笑しながら椅子に座り、机の上に置きっぱなしにしていたアンナにもらった魔法の教本を読んで待つことにした。
時折り、フィリアのかわいい寝顔や寝息で上下する胸をガン見しながらしばらく待っていると、フィリアの目がゆっくりと開いた。
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