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あくあ19歳『春から風の便り』

最終エピソード掲載日:2026/03/28
春の、その先へ
パーティが終わるころには、夜の空気もすっかりやわらかくなっていた。
昼の名残を少しだけ抱えたままの風が、大学の並木道を静かに通り抜けていく。
行きの道ではまだ春の入口だった景色が、帰り道にはもう、春そのものの顔をしていた。
会場の明かりから少し離れた場所で、あくあとみかは並んで歩いていた。
にぎやかな笑い声は後ろに遠ざかっていき、代わりに聞こえるのは、靴音と、葉の揺れる音と、ときどき肩の上で小さく笑うそらの声だけだった。
「……終わっちゃったね」
みかがそう言うと、あくあは少しだけ空を見上げた。
「うん。でも、なんか」
「うん?」
「終わったっていうより……始まった感じがする」
みかはその言葉に、そっと目を丸くした。
あくあがこういうことを自分から言うのは、きっと珍しい。
けれど、今夜のあくあは、いつもより少しだけまっすぐだった。
肩の上のそらが、風を抱くみたいに両手を広げる。
「はじまり……! はる、はじまり!」
その無邪気な声に、みかがくすっと笑う。
あくあもつられるように笑って、それから少しだけ歩調をゆるめた。
前のほうではラブがうれしそうにしっぽを振り、ジュニアが落ち着いた足取りでついていく。
少し離れた場所では、サラと幸太郎が大人らしい静かな距離感で並んでいて、何も言わずに、けれどちゃんと後ろを見守ってくれていた。
そういう夜だった。
誰かが背中を強く押すのではなく、歩ける速さで歩けばいいと、道そのものが教えてくれるような夜。
校門のそばまで来たところで、あくあは足を止めた。
みかも立ち止まる。
春の匂いがした。
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