第陸話 「静寂の中のさざ波」
ブリーフィングルームはいつになく紛糾していた。
いつもなら皆静寂の中で、真剣に耳を傾け、指揮長の命令を聞き、頭に作戦を叩き込んでいくのだが、この日は違った。
前回の作戦が大事になったからだ。
それは、隊員たちの命を危険に晒す可能性もあったのだ。
「俺たちは命を賭けることを厭うことはない。だが、犬死にをするつもりもない。」
一人が静かな声で抗議をすると、他からも同意する声が多数挙がってきた。
「指揮長は作戦の遂行と、俺たちの命とどちらが大事なんですか!」
「まさか、俺たちなんか死んでも良いと思ってないですよね!」
「俺たちは単なる使い捨ての駒なのか!」
皆声を荒らげ、怒っていた。
「諸君、落ち着いてくれ。君たちの命を軽んじるつもりは毛頭無い。当然全員生還を私は望んでいる。
前回の作戦失敗は我が部隊においても、あり得ない失敗だった。
隠密任務を得意とし、静かなる急襲者とまで呼ばれた我々が、あろうことか敵に発見されてしまった……。」
そこで、全員の目が一人の隊員に集まる。
その隊員は、えっと言う表情で周囲の隊員を見渡し、自分のせいですかという表情を浮かべる。
隊員たちの怒りは彼に向かう。
「さざ波!お前があの時、物音を立てさえしなければ、今回の作戦は成功裏に終わっていたんだよ!」
怒りに満ちた隊員の声がブリーフィングルームに響き渡る。
「すみません。」
さざ波のコードネームが付く、怒られた男は恐縮して頭を下げる。
「指揮長、今回の作戦は大丈夫なんでしょうね。まさか、今回もこいつを連れて行くなんてことは無いですよね。」
別の隊員が指揮長に詰め寄る。
「悪いが、今回の作戦にも彼は参加することになっている。しかし、今回の彼の役割は物音を立てることである。作戦名は〔さざ波〕とする。」




