第卅話 「時の迷路」
私は一体どれぐらい彷徨っただろう。いや、彷徨ってはいない。
確実に目的地へ向けて歩いている筈だからだ。
どうしてそれが分かるかと言えば、目の前に宝箱があるからだ。
「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世にも珍しいダンジョンだよ。」
その男はそう言って呼び込みをしていた。
黒山の人集りに釣られ、私もその男の口上を聞いた。
「さあ、お立ち会い。この世にダンジョンなるものは星の数程あれど、ここのダンジョンはちぃと違ぇよ。何が違うって、その宝箱の数よ。なんせ、ちぃと進めば宝箱、も一つ進めば宝箱、あっと言うめに両手一杯ぇのお宝よ。
ん?どうせ入るのに高ぇカネ取るんだろって。お客さん、あっしを舐めて貰っちゃ困りやすよ。そこいらのダンジョンは金貨一枚が相場んところを、こちとら、銀貨一枚でやらしてもらってんでさぁ。
さあ、腕に自信のある御仁は、安いと思ったら潜ってみんな。さあ、さあ、さあ。」
胡散臭いとは思いつつも、銀貨一枚なら損にもならないだろうと、私も挑戦した。なにせ、冒険者としてもそれなりに名を馳せ、腕にも覚えがあったからだ。
だが、このダンジョン、何かが違った。
入り口を入るとすぐに、扉が三つあったのだ。どれか一つを選択して進めと言うことなのだろう。私は真ん中の扉を選んで進んだ。
扉の向こうには、呼び込みの口上どおり、宝箱が設置されていた。開けてみるとそこにはナイフが入っていた。売れば銀貨三枚にはなるだろう。いきなりの儲けである。
部屋の奥には、更に扉が三つあった。
今度は右側の扉を選んだ。そして、その先の宝箱には、業物と思われる剣が入っていた。売ればおそらく金貨数枚にはなるかもしれない。
こうして、私は、扉を開けては、宝箱を開け、宝箱を開けては、扉を開けた。
挑戦を始めた当初、攻略した人物はごまんといるだろうと考えていた。狡猾な罠も、凶暴な魔物も存在せず、ただひたすら扉を選んで開けるだけのダンジョンである。新人冒険者でも簡単に攻略出来そうだと。
だが、実際はそうではなかった。このダンジョンの本当の恐ろしさは、持ち込んだ食料が底をつき、宝箱から食料を得なければ、進むことすらままならないことなのだ。
歳を取り覚束なくなってしまった足取りで、私はいつ手に入れたとも分からない杖を突いて、次の扉を開けたのだった。




