第廿捌話 「霧の中の真実」
彼は霧の中にいた。
この霧の奥にある何かを探していた。まさに五里霧中だ。
何があるのかは彼自身も分かってはいない。
お宝があるのか、宝のありかを示した地図があるのか、それとも異世界への扉があるのか、はたまたこの世の理を示した書物があるのか。もしかしたら、神の怒りに触れ、地獄への扉が開くかも知れない。
それでも、彼はこの霧の中を奥へ奥へと進んでいった。
ヒンヤリとするこの霧は、彼の身体を容赦なく蝕んでいった。
体力が奪われ、気持ちが萎え、進む気力さえ奪われていく。
それでも、この先にある何かを求めて彼は進み続けた。
もう幾年月を彷徨っただろう。
彼の寿命は間もなく尽きようとしていた。
それでも、彼は霧の中を進むことを諦めてはいなかった。
何かがあるはずなのだ。この奥には何かか……。
この世は理不尽だった。
彼は人生の大半を彷徨い続けるしかなかったのだ。
神の仕業だったとしても、赦されるものではない。
HSP、ハイリー・センシティブ・パーソン。環境感受性あるいは感覚処理感受性が極めて高い人であると、そう彼が診断されたのは子供の頃だ。
彼にはすべてが霧に見えていた。
この世のすべては彼の身体と心を蝕む霧だったのだ。
冷たくてヒンヤリとする霧だったのだ。
しかし、漸く彼には分かった。
この霧こそがこの世の姿なのだと。
この霧こそが本当の世界なのだと。
この霧の向こうに何かがあるのではない。
この霧こそが彼の求める何かなのだと。
寿命を迎えた彼には見えたのだ。
この世に漂っていた霧は、この世の理、真実を示した因果の関係だったのだと。
我々人間はその知能の低さ故に、神が造りしこの因果の関係が見えなかったのだと。




