第廿漆話 「私と時間と神様と」
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタク…………
客のいない店内に時計が刻む秒針の音だけが響いていた。
私は商店街にある一軒の時計屋で店番をしていた。
個人商店の時計屋など、今時珍しいだろうが、なんとか持ちこたえている。
だが、最近近所に大型商業施設が出来てから、この商店街もシャッターが降りるようになってしまい、ウチもいつ店仕舞いをすることになるか、戦々恐々としている。
一見さんが持ち込む電池交換や、常連さんが持ち込む修理依頼、そして時折訪れる贈答用や自分用の時計購入などで、なんとか生計を維持してきたのだ。
今の時代、スマホがあれば何でも事足りる。時計もそうだ。スマホを見れば時刻は分かるし、アラームもセット出来るし、世界中の時刻を確認することだって出来る。その上、カレンダー機能を使用すれば、スケジュール管理も出来てしまうのだ。
そんな時代には、ますます時計なんていらないのだ。
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタク…………
店内に響き渡る時を刻む音だけが静寂を破る。
突然、入り口のガラス戸が開いた。
「いらっしゃいませ。」と私はお客に声を掛けた。
「この時計を直してもらいたいのですが。」
持ち込まれた時計は、古びた振り子式の掛け時計だった。中を開けてみると、一目瞭然、発条が切れていてたのだ。
部品を交換するしか手はないので、取り寄せのため日数を貰うことをお客に告げた。
お客は待つことを承諾してくれたので、その時計は一旦預かることとした。
私は出入り業者に連絡し部品を発注すると、他に不具合がないかを確認するため、その時計の内部清掃に取りかかった。
慎重に部品を外しながら、一つ一つ丁寧に清掃していくと、機械部分を取り外した先に、小さな、小さな祠があった。ご丁寧に鳥居まで設置された祠には、時量師神と書かれた表札まであった。
時量師神とは、時間を司る神とも、厄災を〔解き剥がす〕神とも言われている、時計屋の私にとっては馴染みの深い神様である。
それがなぜ、ここにおわすのかは分からないが、私は思わず手を合わせた。
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタク…………
私は店内の時が正確に刻まれていることを感じたのだった。




