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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第廿伍話 「時間と鏡」


 私は鏡の前に立っていた。全身が映る、身嗜みを整えるための鏡である。

 そこには、いつもの私が映し出されていた。

 私が右手を動かせば、鏡の中の私は左手を動かし、私が左手を動かせば、鏡の中の私は右手を動かす。そう、何の変哲もない普通の鏡である。

 この鏡は私が気に入って購入した。

 出かける時はいつもこの鏡で身嗜みを確認している。


 この鏡を設置する迄の私は、いつも仕事に追われ、時間に追われ、人生に追われていた。生き急いでいると人には良く言われたが、自分ではそんなつもりはなく、ただ日々の生活を送っているだけだった。


 だが、私の人生はこの鏡と共に変わった。この鏡を設置してからと言うもの、何かに追い立てられるような人生ではなくなったのだ。

 そう、言うなれば余裕が出来たのである。


 しかし、時を経ると、鏡の中の私が変わった。

 私が右手を動かすと、鏡の中の私も右手を動かし、私が左手を動かすと、鏡の中の私も左手を動かすようになった。

 私が微笑みかければ、鏡の中の私は怒り顔になり、私が怒り顔になれば、鏡の中の私は微笑みかけてくるのだ。


 普通に考えればおかしいことなのかも知れない。

 でも、私はもう慣れてしまった。

 今では鏡の中の私が、身嗜みのおかしな所を直してくれたりするのだ。

 私たちは互いにおかしな所がないか確認し、直し、そして仕事へと向かうのだ。

 互いに言葉を交わすことだってある。

 昨日あったこと、今日の予定、楽しかったこと、悲しかったこと、何でも気兼ねなく話をしたし、話を聞いた。

 そして、私は鏡の前に居る時間が長くなっていった。

 気付いたら朝になっていたり、会社に行くことすら忘れて夜になっていたり、食事を摂ることすら忘れてしまうのだ。


 しかし、鏡の中の自分と話す言葉は、まるで鏡戒きょうかいのように、私の心に響き、私は自分の身体がおかしくなっていると自覚していても、鏡の中の自分と話すことを止めることは出来なかった。

「あなたと話をしてるとホントに時間を忘れてしまう。」

 私がそう言うと、

「私はあなたの人生を糧に生きていられるから。」

 鏡の中の私は、ニヤリと微笑んだ。


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